最新記事

東南アジア

ヘイトスピーチ、誹謗中傷、言葉狩り...... インドネシア、政治の年に高まる緊張

2018年5月7日(月)17時12分
大塚智彦(PanAsiaNews)


イスラム団体指導者も槍玉に

一方で、インドネシアの政党「国民信託党(PAN)」の代表であり、イスラム団体「ムハマディア」の指導者でもあるアミン・ライス氏があろうことか「イスラム教という宗教を政治に持ち込み、国家・国民の分裂を招こうとした」として警察に告発される事態となっている。

アミン・ライス氏は4月27日、ジャカルタ市内のモスクで演説し「神に反する者は自動的に大政党に入る。その政党は悪魔(サタン)の政党であり、世界と死後の世界も破壊する破壊者によって悪魔がはびこる政党である。しかし信心深い人が入るヒズボラという神の政党もある。その政党は戦いに勝利し栄光が輝く政党である」と述べたのだった。

これに対し政治グループ「サイバーインドネシア」が「このようなインドネシアを分裂させようとするスピーチはヘイトスピーチであり容認できない」と警察に告発。警察も事態を重視、調査に乗り出している。

インドネシアでは宗教を政治のプロパガンダに利用することは社会通念上許されていない。それは禁忌(タブー)として触れないようにしている「種族・宗教・人種・階層(略してSARA)」に属する問題であるからだ。

1998年当時の民主化のうねりの中でアミン・ライス氏は学生やインテリ層の支持を集めた民主化運動の主導者の一人で、イスラム指導者でもあったが、イスラム教に関する発言で告発されたことに「時代の流れ」を感じた国民も多かった。

「スルタンを殺せ」の落書きが問題に

5月1日のメーデーは民主化が実現した1998年以降のインドネシアでは労働者や学生、市民らが街頭でデモ行進して労働環境改善や賃上げを平和的に訴える恒例行事だった。しかし今年のメーデーは様相が異なった。中部ジャワのジョグジャカルタ特別州では大学生らのデモ隊が交番に放火するなど暴徒化、警官隊と衝突した。

そしてジョグジャカルタ市内の大学玄関や掲示板、公共バスの車体など複数の場所で「スルタンを殺せ」という落書きが発見された。

ジョグジャカルタは全国で唯一、伝統的・歴史的地位であるハメンクブウォノ10世という王(スルタン)が首長を務める州で、学生らはデモの中で「封建主義(スルタン制度)の排除」も掲げていたのだ。

これまでに大学生4人が逮捕されているが、容疑は暴力行為と麻薬使用としか発表されていない。しかしスルタンへの脅迫容疑での取り調べが続いているとみられている。警察署で学生に面会しようとした法律擁護協会(JBH)の弁護士らが面会を拒否されており、新たな人権問題も浮上している。

「殺害予告」が出された形のハメンクブウォノ10世知事は「特に身の危険は感じていないし、学生らを訴えるつもりもない。警察の捜査を見守るだけだ」としている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強

ワールド

イランとパキスタン、国連安保理にイスラエルに対する
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中