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プーチン政権批判のロシア人記者射殺──ウクライナ首都キエフで2人目

2018年5月30日(水)17時50分
ジェーソン・レモン

射殺されたバブチェンコのアパート前に集まった警察車両(5月29日、キエフ) Gleb Garanich –REUTERS

<プーチン政権に批判的なジャーナリストがまた殺された。ロシアの情報機関の仕業なのか?>

5月29日、ウクライナの首都キエフでロシア出身のジャーナリストが射殺された。殺害されたアルカディ・バブチェンコ(41)は、プーチン政権を激しく批判する反政府派として有名な存在だった。

地元紙の報道によれば、バブチェンコはキエフの自宅アパートで背中から銃撃を受けた。浴室にいた彼の妻が床に倒れて血を流している夫を発見し、警察に通報。救急チームによって病院に搬送されたが、到着前に死亡した。

ウクライナ警察はまだ容疑者を特定していないが、殺害の原因は「被害者の仕事」ではないかとみる。バブチェンコは戦場ジャーナリストとして名を上げ、ロシアと対立するウクライナ政府を公然と支持していた。2017年2月に命の危険を感じてロシアを出国して亡命先のウクライナに住んでいた。

殺された反体制ジャーナリスト、バブチェンコ(41)


欧州安全保障協力機構(OSCE)で「メディアの自由」担当代表を務めるフランスの政治家アルレム・デジールは、このニュースに「おののいた」とツィッターに投稿。「ただちに徹底的な調査を行うよう、ウクライナ当局に要請した」と述べた。

ウクライナの内務省顧問アントン・ゲラシチェンコは、「ロシアとウクライナについての真実を伝えようとする人々を排除するロシア情報機関」が捜査の焦点になる、と英ガーディアン紙に語った。

階段で待ち伏せし背後から撃つ

ゲラシチェンコはまた、バブチェンコ殺害の詳しい状況を説明した。犯人はアパート内の階段で待ち伏せし、パンを買うために部屋から出たバブチェンコを背後から撃ったという。

ロシア政府幹部は責任をウクライナ政府に転嫁し、ジャーナリストを保護する能力もないと非難した。「ウクライナは危険な国だ」と、ロシアのエフゲニー・レベンコ議員は述べた。「政府は基本的な人権を守ることもできない」

バブチェンコは、ロシアの政策や軍事行動を批判してきた。2014年にロシアがウクライナのクリミアを併合したときはプーチン政権を痛烈に批判した。ロシアが、ウクライナからの独立を願う親ロ派武装勢力を軍事支援していることも非難した。シリアへの軍事介入にも反対していた。

彼の記事に対しては、一般ロシア国民からの批判も多かった。なかでも物議を醸したのは2016年12月に起きた軍用機墜落の記事。ロシア軍の赤軍合唱団のほぼ全員が死亡したことに悲しみも感じないと書いた。ロシアの誇りでもある同合唱団は、シリアに派遣されたロシア軍の慰問に向かう途上だった。

キエフで殺害された独立系ジャーナリストはバブチェンコが初めてではない。2016年には、調査報道で高く評価されていたベラルーシ出身の著名ジャーナリスト、パーベル・シェレメトが自動車に仕掛けられた爆弾で殺されている。シェレメトは頻繁に、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの政府関係者を批判していた。

(翻訳:栗原紀子)

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