最新記事

核兵器

南アフリカのケースに学ぶ核放棄の条件

2018年4月5日(木)15時50分
ジョシュア・キーティング(スレート誌記者)

核を廃棄したデクラーク大統領(当時)はノーベル平和賞を受賞 Kim Kyung Hoon-REUTERS

<北朝鮮が本気で核保有を断念するとしたら、政権が変わるときか、世界が変わるときだけだ>

開発に成功した核兵器を廃棄した国は、今のところ1つしかない。アパルトヘイト(人種隔離政策)の廃止に踏み切ろうとしていた1989年の南アフリカだ。米朝交渉の可能性が急浮上した今、この事例はいくつかの教訓を教えてくれる。

ウランが豊富な南アフリカは、最初から核兵器と縁があった。世界初の原爆製造に成功したマンハッタン計画で使われたウランの一部は南アフリカ産だ。50年代後半にはウランの主要輸出国となり、60年代初頭には、原子力の研究開発に着手した。

当初の研究目的は核の平和利用。核爆発を土木プロジェクトに活用する構想が注目を集めていた。だが、この段階でも国内には核兵器の開発に関心を示す動きがあり、その後国際的な懸念が高まった。77年にはソ連とアメリカが、南アフリカが起爆装置の実験準備を進めていた証拠を発見。圧力をかけて中止させた。

この頃から、南アフリカは核の軍事利用に向けて舵を切っていた。その背景には、当時のアフリカ南部の政治情勢に対する強い危機感があった。

75年にアンゴラとモザンビークが相次いでポルトガルから独立。ソ連とキューバの支援を受けて権力を握った左派政権は南アフリカの反アパルトヘイト組織、アフリカ民族会議(ANC)と結び付いていた。南アフリカが統治していたナミビアでも、共産主義陣営とアフリカ諸国の支援を受けたゲリラとの間で独立戦争が続いていた。

南アフリカはアフリカ南部で共産主義勢力の伸長を防ぐため、伝統的に同盟国アメリカに頼っていた。だがアメリカでは外国でのCIAの秘密活動に懸念が高まり、米議会は76年、紛争地域のあらゆる武装勢力への支援を禁止した。

77年には国連安全保障理事会がアメリカを含む全会一致で、南アフリカへの武器禁輸決議を採択した。禁輸の第1の理由はアパルトヘイトだったが、同決議には核開発計画への「重大な懸念」も盛り込まれた。

孤立化と禁輸は逆効果に

80年代に入ると、南アフリカは6発の核弾頭とさまざまなミサイルを完成させた。核開発計画を廃棄する直前には、7発目の核弾頭を完成させつつあった。

だが80年代末、安全保障をめぐる環境が一変する。冷戦が終結に向かうと、親ソ勢力による侵略の危険性は低下した。アンゴラでは停戦協定が成立し、キューバ兵5万人が帰国。南アフリカもナミビアから撤兵した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中