最新記事

シリア情勢

ロシア、トルコ、イランが(アメリカ抜きで)決めるシリアの運命

2018年4月4日(水)19時00分
クリスティナ・マザ

左からイランのロウハニ大統領、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領(写真は2017年11月22日、3カ国首脳会談で) Mikhail Metzel/ REUTERS

<トランプの対シリア政策は二転三転し、アメリカの存在感がなくなりかけているのを機に、3カ国はシリアを「山分け」しようとしている>

ロシア、トルコ、イランの首脳らは、4月4日(水)にトルコの首都アンカラで一堂に会し、シリアの将来を協議、7年も続いた血なまぐさい内戦にけりをつける方法について話し合う。だがアメリカをはじめとする西側諸国は出席していない。

トルコの関係者によると、話し合いの中心は、シリアの新憲法の起草と、緊張緩和のための「安全地帯」の設定になるだろう。

この3カ国はすべて、現在進行中の戦争とシリアの未来に大きな利害関係がある。3つの地域の大国が協力すれば、これまで約50万人の死者を出した内戦が沈静化する可能性はが高まる。それは同時に、シリアにおけるアメリカの存在感の薄さを浮き彫りすることにもなる、と専門家は指摘する。

「ドナルド・トランプ大統領は米軍の無期限配備を主張したり、早期撤退を唱えてみたり、シリアへの関与に関して立場を二転三転させている」と、ハワード・ベイカーセンターの研究員ハリソン・アキンズは本誌に語った。「トランプ政権に対する信頼性の低さからすると、シリアの紛争に直接政治的関心のある国々、特にイランやトルコにとっては、アメリカはお呼びでないというところだろう」

現に、米国防総省はシリアに米軍の追加派遣を行う計画を発表しているが、トランプは早急に駐留米軍を全面撤退させると正反対の発言をしている。

ねらいはシリア復興利権

シリアの将来について3カ国がいかにして妥協点を見出すのかは、はっきりしない。ロシアとイランは引き続きシリアの残忍な指導者バシャル・アサド大統領を支持しているが、トルコは反アサド。アサドには正統性がないと主張している。

3カ国はいずれもシリアで代理戦争を戦っているため、複雑な戦場のなかで互いに衝突することも少なくない。

トルコは最近、シリア北部のアフリンで、アサド政権の支援を受けたクルド人武装勢力に対して激しい攻撃を開始した。一方、シリア政府軍は、イランが支援する民兵組織とともに、反政府勢力の支配下にあるとするダマスカス郊外の東グータに侵攻した。トルコはこの攻撃を激しく非難している。

だがこの会議の焦点は、政治的合意の形成よりも、シリアの復興に際して生じる経済的機会をどのように分配するかという点にある、とみる専門家もいる。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究員(中東情勢)、ベンジャミン・ラッドは、「この会議は、戦利品を分配する方法、それも主に国家再建に伴う軍事および民間の契約の配分を話し合うためのものだ」と、本誌に語った。

「シリア政府の一部は、ロシアとイランに矛盾する約束をしてきた。その矛盾点を解決しなければならない。ロシアとイランはシリアに大きな投資をしており、トルコはパイのかけらを欲しがっている。彼らは敵同士でありながら行動を共にしているが、その狙いは経済的なチャンスだ」と、ラッドは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中