最新記事

米中関係

米中貿易戦争は中国に不利。習近平もそれを知っているので最悪の事態にはならない

2018年4月19日(木)18時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

実は心穏やかでない中国の習近平国家主席(写真は北京、4月16日) Naohiko Hatta/ REUTERS

<アメリカと世界経済に及ぼす大打撃が懸念されているが、実は中国には大きな弱点がある。大々的な報復関税の代わりに市場開放を言い出したのもそのためだ>

それは見事な「大人の対応」であり、米中貿易戦争を回避できると(一時的にせよ)各方面を安堵させる発言だった。

中国の「不公正な貿易慣行」をツイッターで盛んに非難するドナルド・トランプ米大統領に対し、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は冷静さを失わず、鷹揚に応じたかにみえた。

4月10日にアジアフォーラム2018年次総会で行ったスピーチで、習は市場開放の推進を強調、現行25%の自動車関税など輸入関税を引き下げ、自動車メーカーの外資規制を撤廃すると宣言した。

これを受けてトランプは、「関税と自動車規制に関する習主席の親切な言葉にとても感謝している」とツイートした。米株式市場はこれを好感して一気に反発した。

習も安堵したかもしれない。GDP1位と2位の経済大国が貿易戦争を始めれば、どちらの国も大きな痛手を受ける、というのが世界の常識だ。対立したままでは、トランプと習が互いの頭に銃口を突きつけ合っているようなものだ。

だが、現実はそれほど単純ではない。実はうまくすれば、アメリカは中国に勝てる。少なくとも中国により大きな損失を負わせることができる。

大恐慌の新たな教訓

「貿易戦争にはちょっとした汚い秘密があり、アメリカ経済のように巨額の赤字を抱える多角化した経済は、貿易戦争もやり方次第で、少なくとも短期的には成長にプラスにできる」と、北京大学のマイケル・ペティス教授は言う(ただし、アメリカが貿易不均衡を是正するには、まず海外からの借金に歯止めをかけるのが本筋だと、ペティスも他の経済学者も言う)。

貿易戦争と言えば、多くのアメリカ人が連想するのは1930年のスムート・ホーリー関税法だ。恐慌の最中、アメリカが国内産業保護のために関税を大幅に引き上げたことで、世界の貿易は縮小し、恐慌がさらに深刻化したと言われている。だが、これがとんでもない愚策だったのは、当時のアメリカがちょうど今の中国のような輸出大国で、巨額の貿易黒字国だったからだ。

当時のアメリカは自国の生産品を国内だけでは消費できず、どんどん輸出していた。この時期のアメリカの貿易黒字は「絶対額で史上最高だった」と、ペティスは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、出産費用「自己負担ゼロ」へ 人口減少に歯止め

ワールド

ロシア中銀、ユーロクリアを提訴 2300億ドルの損

ワールド

中国が岩崎元統合幕僚長に制裁、官房長官「一方的措置

ビジネス

フジHD、33.3%まで株式買い増しと通知受領 村
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中