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新冷戦

プーチン「無敵」の核兵器は恐れるに足らず

2018年3月2日(金)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

今のロシアはせいぜい地域大国でしかなく、シリアとウクライナ東部を除けば国外に要衝がない。ロシア軍はここ10年で装備の更新や軍改革を進め、戦力を大幅に改善させたが、いざ直接対決になればアメリカの敵ではない。経済も失敗続きだし、華麗な愛国主義と、プーチンを強い英雄に見立てた個人崇拝と、ロシア帝国へのノスタルジアが混在したイデオロギーは、ロシア国外では全然受けない。ロシアは張子の虎だ、と言いたいのではない。ロシアの核兵器は恐らくまだ使えるし、シリアでの空爆や砲撃では多くの犠牲者を出している。ロシアがアメリカを含む他の国々を大規模戦争に巻き込む恐れも十分ある。だがプーチンは旧ソ連のレオニード・ブレジネフ書記長でも、独裁者ヨシフ・スターリンでもない。トランプも、歴代米大統領のまがい物に過ぎない。

かつては冷戦時代ですら、緊張が高まった時は米ソの外交官が協議の場を設けて緊張緩和に向けた意見交換を行うか、話題をそらすなどして、とにかく収束を図った。米国防総省のNPRに対抗してプーチンが大型スクリーンにミサイルのCG画像を次々と映し出す今のように、両国の競争が過熱した時はまさにそうだった。40年にわたる核軍縮協議には、政治的対立から米ロの対話が不可能になった時期の意思疎通機会、という側面があった。それによって相手が先制攻撃に出るかもしれないという恐怖心を抑えることができた。

弱くて愚かな指導者

だがこれは全て過去の話だ。たとえロシアが平穏な時代を取り戻したくても、プーチンの個人崇拝や、ロシア経済の破綻、ロシア帝国復活を切望するノスタルジアが障壁になる。浅はかで向学心がなく、外交を担う人材をどんどん排除し、共謀疑惑があるために自分からプーチンに働きかけることもできないトランプも、平穏な時代に取り戻す障害になっている。

ここで言う「平穏な時代」とはなんと冷戦時代のことだ。核戦争の勃発に備えて米政府が国民に強制した「ダック・アンド・カバー(身を伏せて頭を覆う)」訓練を経験した筆者が、冷戦時代にノスタルジアを感じるとは、何と不思議なことだろう。今振り返れば、あれは平穏な時代だった。少なくとも、白黒ははっきりしていた。今は、問題を直視してそれと取り組もうとするプロ意識と真摯さと努力のすべてが、米ロ双方に欠落しているのだから。

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