最新記事

新冷戦

プーチン「無敵」の核兵器は恐れるに足らず

2018年3月2日(金)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

年次教書演説でアメリカの核戦略に対抗する新兵器を披露したプーチン Alexei Nikolskyi/Sputnik/KREMLIN-REUTERS

<射程距離が無限でレーダーにもかからない核ミサイル?──プーチンの誇大宣伝に騙されるな。ロシアは今だってアメリカのミサイル防衛を突破できる>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は1日に行った年次教書演説で、ロシアが新型の核兵器を開発していることを明らかにした。アメリカのミサイル防衛システムを突破し、再開した軍拡競争で優位に立とうとする意志を明確にした。

プーチンが明かした新型核兵器の1つは、原子力エンジンで射程距離を無限に延ばせる巡航ミサイルだ。プーチンの背後の大型スクリーンでは、この巡航ミサイルが大西洋を横切り、南米大陸を迂回して、太平洋沿岸からアメリカ本土を目指すCG画像が映し出された。しかも飛行中は海面ぎりぎりの高度を飛ぶため、ミサイル防衛システムのレーダーにかからないという。

この一見「無敵」の新型核兵器の開発には莫大な予算がかかるだろう。だが大して効果的とは思えない。重い原子炉を搭載すれば、核弾頭を搭載できる余裕は小さくなるからだ。もしロシアがアメリカのミサイル防衛システムを凌駕したいのなら、1つの標的に2~3発の巡航ミサイルを発射する方が、効果的で安上がりな戦略だろう。

ミサイル防衛システムが、一度に1発以上のミサイル攻撃に対処できないことはよく知られている。これはアメリカ側の問題で、冷戦の初期から解決していない。その解決策としてアメリカが取った戦略は、まず敵国が先制攻撃に出ないよう、攻撃を抑止するのに十分な反撃能力を持つことだ(簡単なことではないが)。

プーチンが興奮気味の演説で何を言おうとこれは変わらない。

迎撃できるのは4発目まで

プーチンに踊らされたメディアもある。BBCのオンライン版は「プーチンがロシアの『無敵』核兵器を披露」、CNNは「プーチンの新型『無敵』ミサイルが米防衛システムを打ち破る」と大袈裟な見出しを付けて報道した。両方ともさすがに「無敵」と括弧はつけていたが。

重要なのは、核兵器はこれまでも防衛システムを「突破」できる点で常に「無敵」だったという事実だ。例えば運良く最初の核攻撃の迎撃に成功したとしても、敵は続けて攻撃を仕掛けて来る。大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃するアメリカの防衛システムは、4発まで迎撃できるように設計されている。しかしそれは5発目の核攻撃は迎撃できないことを意味している。

アメリカと旧ソ連が1972年に弾道弾迎撃ミサイル制限(AMB)条約を締結し、双方が迎撃ミサイルの配備を制限したのも、この事実を認識していたからだ。攻撃と防衛の軍備競争において、攻撃は常に優位に立つ。増強が容易な攻撃力に対し、なぜ複雑な防衛に大枚をはたく必要があるのか?

プーチンはこの他にも、ミサイル防衛システムを回避するために複数の弾頭を搭載できる2つの新型ミサイルの開発計画を明らかにした。しかしどちらのミサイルもロシアウォッチャーにはすでによく知られているもので、開発には時間がかかる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談

ワールド

米政権、消費者金融保護局局長にOMB幹部指名 廃止

ビジネス

米8月の貿易赤字、23.8%減の596億ドル 輸入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中