最新記事

日本政治

それでも安倍政権にNOと言えない保守派──森友学園文書書き換え問題

2018年3月14日(水)21時20分
古谷経衡(文筆家)

が、選挙で旧次世代の党が大敗した後、保守派の支持は再び自民党に回帰した。旧次世代の党で落選した議員は、一部を除いて次々と自民党に復党していった。

結局、この国の保守派にとって安倍総理と、自民党以外の選択肢が存在しないことが、保守派をして安倍総理や安倍政権への一方的な、「片依存」とでもいうべき激烈な思慕の情をますます以て増大させたのである。

じわりと広がる危機感

森友学園に関する文章書き換え問題は、自民党にとって最も重厚な支持層である、穏健な中道層からの離反を招く危険性がある。

佐川氏の辞任が納税時期と重なったこともあるが、朝日新聞のスクープに始まった一連の公文書書き換えの範囲と量が、単に「書き換え」の四文字で処理されるにはあまりにも広汎で、重大であることは客観的に見て明らかだからである。

このまま行政府が責任を取らなければ、「官」それも「官の中の官=財務省」への漠然とした信頼を持っていた中間層・穏健層からの支持が揺らぎかねない。

確かに本件は突き詰めると一部官僚の不手際かもしれない。が、小泉進次郎筆頭副幹事長が「自民党という組織は官僚の皆さんだけに責任を押しつけるような政党じゃない」(3月12日)とコメントしたように、百歩譲って安倍夫妻のあずかり知らぬところでおこった文章書き換えであっても、「政権は逆に被害者である」と開き直る論法は一般の有権者には通じない。

事実、読売新聞の世論調査では、「(森友文章問題に対して)政府が適切に対応していると思わない」が80%、自民党支持層に限っても65%と圧倒的に高い結果だった(12日)。

まだ見ぬ自民党総裁の為にも

最低でも麻生財務大臣の責任を問う声が、保守派からあがるべきだが、麻生辞任が安倍辞任に繋がる、というコースを恐れてか、保守派や保守系言論人の多くは、いまをもって安倍政権へのNOの声が驚くほど鈍い。

時の宰相への思い入れは別にして、国や政府の失態には毅然としてNOというのが真の愛国者ではないだろうか。

保守派にとって本来重要なのは安倍政権では無くて国益のはずである。しかし、第二次安倍政権への期待の熱量があまりにも大きく、そしてその熱が安倍総理や自民党以外へのやり場が無い状態が5年半も続いたせいで、この国の保守派は安倍政権に対する正面からの批判を全て封じ込め、逆に保守派にとって冷淡な政策判断ですら、自身の抱く「願望」に照らし合わせ、都合の良いように解釈してきたきらいがある。

これは本当の意味での保守派とは遠く、セクト主義とポジショニング話法の蔓延である。このような状態は、長期的に見て保守派にとっても国益にとってもまた、民主主義国家の発展にとっても好ましいことでは無い。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

furuya-profile.jpg[執筆者]
古谷経衡(ふるやつねひら)文筆家。1982年北海道生まれ。立命館大文学部卒。日本ペンクラブ正会員、NPO法人江東映像文化振興事業団理事長。新著「日本を蝕む『極論』の正体」 (新潮新書)の他、「草食系のための対米自立論」(小学館)、「ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか」(コアマガジン)、「左翼も右翼もウソばかり」(新潮社)、「ネット右翼の終わり」(晶文社)、「戦後イデオロギーは日本人を幸せにしたか」(イーストプレス)など著書多数。51arNBao30L._SL160_.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中