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それでも安倍政権にNOと言えない保守派──森友学園文書書き換え問題

2018年3月14日(水)21時20分
古谷経衡(文筆家)

安倍政権に裏切られ続ける保守派

○第一に、2012年の第二次安倍政権発足前に、自民党マニフェストに書き込まれていた「竹島の日式典の政府主催」。いつのまにかフェードアウトされ現在でも実現されていないこと(島根県主催の大会に政府代表を送るにとどめる)。「尖閣諸島公務員常駐」案に至っては、まったく実現されていない。この文句があるから民主党を見限って自民に入れた、というタカ派は相当多かった。

○第二に、保守派の念願であった「8月15日の靖国神社参拝」。安倍総理は2013年12月になって初めて靖国神社を公式参拝したが、8月15日では無かった。「行っただけ良かった」という声もあったが、8月15日では無いことに保守派は失望した。その後、安倍総理は玉串料を8月15日に送るだけにとどめ、参拝は一切していない。

○第三に、保守派の歴史観とは真反対の河野談話の見直しについて。第二次安倍政権は河野談話の見直しに向けた検証作業を行い、保守派はこの作業に大きな期待をかけた。が、結局は「安倍内閣で見直すことは考えていない」と明言して、保守派が第二次安倍内閣に大きく期待した「河野談話の破棄・撤回」はうやむやになって終わった。

○第四に、保守派が注目した戦後七十年談話(2015年8月)。結果は、「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」という村山談話の4つのキーワードを全て踏襲したものであった。

保守派の多くは「大東亜戦争」は自衛戦争であって、朝鮮半島を植民地にした事実は無い、という歴史観に立っている。よって河野談話の見直しと共に村山談話の見直し・破棄に対し、安倍政権に大きな期待をかけていたが全く実行される事が無かった。

○第五に、日韓関係である。2017年、朴槿恵政権との慰安婦日韓合意(岸田・尹会談)に際して、安倍総理は「慰安婦への日本軍の関与」を認め、「心からおわびと反省の気持」を明言し、「最終的不可逆な解決」で合意した。

「従軍慰安婦は自由意志で軍に追従した"追軍売春婦"であって、日本政府には謝罪も賠償の必要も無い」という立場が大半を占める日本の保守派は、この日韓合意に憤慨した。日本政府がおわびの名目で10億円を財団へ拠出したことにも失望が広がった。

○第六は、平昌五輪に際する安倍総理の出席問題。朴政権から文政権に交代し慰安婦合意が骨抜きにされると、日本の保守派は沸騰して安倍総理の訪韓中止を期待した。しかし、観測報道を裏切って安倍総理は訪韓した。ここでも、保守派の安倍総理に対する期待や思いは冷淡な反応で返され続けたのである。

結局自民党しか無い

これ以外にも些末な保守派の安倍政権への一方的思慕と失望は繰り返された。が、前述の通り保守派はどんなことがあっても常に安倍政権を支持し続けてきた。

なぜなら、結局、安倍政権以外に保守派が支持する政治家や政党(自民党)が存在しないからである。

2014年の総選挙で、「自民党より右」を標榜して立った旧次世代の党に対し、保守派が大きな期待をかけたのは、この「安倍政権に対する期待」と「現実の落差」というフラストレーションが呼び起こしたものだった。

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