最新記事

ジェンダー

北欧の働く母親も楽じゃない

2018年2月28日(水)16時30分
ジョーダン・ワイスマン(スレート誌記者)

これは特に、昇進を目指す女性にとっては問題だ。手厚い福祉国家において女性は働き続けることが多いが、高給の管理職になる可能性は低いことが分かっている。長期の育児休暇制度は女性全体の雇用を向上させるかもしれない。しかし高学歴の女性の収入は、男性と比べて低くなる可能性がある。

デンマークとスウェーデンの女性は世界で最も高い労働市場参加率を誇るが、ジェンダーによって職種が分かれている。女性はより賃金が低く、より柔軟性の高い公共部門で働く割合が非常に高い。

育児休暇の欠点を補うべく、父母が交代で休暇を取ることを勧めている国もある。デンマークでは52週間の休暇のうち32週間は父母どちらでも利用できる。14年の時点で男性が取得した育児休暇は平均で27日、全期間の8.9%だった。

両親で合計480日の育児休暇を取れるスウェーデンでは、そのうち3カ月は父親専用だ。使わなければゼロになるこの政策は、いくらか男性に育児休暇を取らせる効果があったようだ。今や、ベビーカーを押す男性の姿はスウェーデンの典型的な父親像として定着している。

それでもスウェーデンが完全な男女平等になったわけではない。14年の時点で、男性が取得した育児休暇は123日で、女性は356日だった。

政策による支援の限界

母親のキャリアを妨げるのは出産休暇だけではない。

スウェーデンでもデンマークでも、パートタイムで働く女性が多い。スウェーデンには、幼い子供のいる親にパートタイムで働く権利を与える政策もある(ただしパートの奨励は男女平等を妨げるとして、デンマークのフェミニストたちはそうした政策に反対している)。

パート勤務の奨励には社会の風土も影響しているようだ。クレーブンらの研究によれば、デンマークとスウェーデンの成人の約60%は、学齢期の子を持つ女性はパートタイムで働くべきだと考えている。

伝統を変えるのは容易ではない。デンマークでは労働組合や父親の権利団体が、もっと父親に育児休暇を取らせるためにスウェーデン式の「使わなければ消滅する権利」の導入を提唱している。

実際、育児休暇を取得して平日に子供を抱いて街を散策するのを楽しんでいる男性もいる。しかし父親の育児休暇には、子供と過ごす時間を減らされたくない母親からの抵抗もある。ここが見落としがちな点だ。結局のところ、多くの女性が家庭のためならキャリアの一部を喜んで犠牲にしている。

豊かで進歩的なデンマークとスウェーデンにおける状況は、公共政策の限界を示している。スウェーデンのカップルに関する研究の著者が言っているように、「家族の責任分担に偏りがある限り、ジェンダーギャップは埋まらない」。

それでも北欧式の寛容な施策には見習うべき点がある。それは性役割の不平等を正す特効薬ではないが、有給休暇と育児の支援制度があれば、仕事と育児を両立させやすいのは確かだ。

またデンマークとスウェーデンのフルタイム就労男女の賃金格差はアメリカよりも小さく、より男女同一賃金に近い。北欧とてユートピアではないが、ほかの国よりは優れている。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

© 2018, Slate

[2018年2月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金正恩氏が列車で北京へ出発、3日に式典出席 韓国メ

ワールド

欧州委員長搭乗機でGPS使えず、ロシアの電波妨害か

ワールド

ガザ市で一段と戦車進める、イスラエル軍 空爆や砲撃

ワールド

ウクライナ元国会議長殺害、ロシアが関与と警察長官 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあるがなくさないでほしい
  • 3
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世界的ヒット その背景にあるものは?
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中