最新記事

中南米

女性の時代の終焉? 右傾化する中南米で女性元首が消える意味

2018年1月7日(日)12時45分

チリのバチェレ大統領(左上)、ブラジルのルセフ前大統領(右上)、アルゼンチンのフェルナンデス前大統領(左下)、コスタリカのチンチージャ前大統領。それぞれ2017年1月、2016年8月、2015年4月、2014年5月撮影 (2018年 ロイター/Rodrigo Garrido/Adriano Machado/Sergei Karpukhin/Juan Carlos Ulate)

チリのバチェレ大統領が3月に任期を満了するのに伴い、中南米における「女性指導者の時代」が終わりを迎える。政治的に右傾化する同地域で、女性の国家元首がいなくなる。

2010年ごろには、マチズモ(男性優位主義)で知られる中南米地域において、アルゼンチン、ブラジル、コスタリカとチリの各国で女性がトップの座に就いていた。

だが17日に行われたチリ大統領選の決選投票で、保守派のピニェラ前大統領が返り咲き、その時代に終止符を打った。

バチェレ大統領は、コモディティブームに後押しされ南米経済が急成長した時期に、左派傾向の強まりを受けて権力の座についた最初の女性指導者だった。2006─2010年に大統領を務めた同大統領は、2013年に再選された。

バチェレ大統領は、ブラジルのルセフ前大統領やアルゼンチンのフェルナンデス前大統領と共に、まん延していた女性への暴力をやめさせる法律を成立させ、公職に女性枠を設けることで議会での女性議員比率を欧州より高めるなど、地域女性の前進を象徴する存在だった。

だがいまや、女性の権利推進が停滞しないかと危惧されている。

「われわれは、過去15─20年の前進に対して疑問を呈する保守政治へのシフトを目の当たりにしている」。国連開発計画で中南米のジェンダー問題を担当するエウゲニア・ピザロペス氏はそう指摘する。

保守派グループが、地域全体で男女平等主義を標的にしていると、ピザロペス氏は言う。ペルーとコロンビアでは、伝統的な女性の役割から脱皮するよう少女たちを啓発する授業に対して抗議デモが起きたことで、教育担当大臣が辞職に追い込まれた。

チリのピニェラ候補は選挙戦で、出生率低下に対する懸念を訴え、バチェレ政権が緩和した人工妊娠中絶関連法の改正に意欲を見せた。バチェレ氏は厳しい中絶要件を緩和し、レイプや胎児の不育、出産時に妊婦が死亡するリスクがある場合などは、中絶を認めていた。

女性指導者の方が男性よりも女性の健康や権利を前進させるという明確な研究結果はないものの、米オクラホマ州立大で政治科学を研究するファリダ・ジャラルザイ氏は、中南米における調査でそうした傾向がみられたと語る。

「例えばジルマ(ルセフ氏)は、貧困や住宅対策など既存政策を取り上げ、それが女性の問題だということが明確になるように仕立て直した」と、ジャラルザイ氏は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中