最新記事

エンターテインメント

映画関係者が興行収入をかけ契約交渉する見本市AFMとは?

2017年12月9日(土)12時40分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

afm_sub_20171208_214513.jpg

会場のホテルロビーは情報交換する人びとで賑わう。 © The Independent Film & Television Alliance

交渉の場では、各バイヤーが様々な交渉テクニックを駆使する。韓国のバイヤーはその最後の価格交渉ミーティングにはスタッフを同席させず、自分のアシスタントにも"秘技"を見せないといわれている。

ミーティングは各会社のブースで行われるが、AFMでは、開催期間中、事務局側が会場となるホテルをまるごと借り切っていて、各客室がミーティング会場となる。客室内のベッドやテーブルが全て取り除かれ会議室に早変わりするのだ。室内はテーブルやいす、たまにソファーなどが置かれTVが設置されている。映画の予告編をバイヤーに見せるためだ。また、ポスターやチラシなどが置かれ各社自社の映画の魅力を最大限にアピールしている。

ミーティング内容は完全秘密だといったものの、どの映画がいくらで売れた、あの映画が試写会で人気だったなどの情報は、毎朝会場で無料配布されているVariety/Hollywood Reporter/Screen Internationalの映画業界誌3社が毎日発行するAFM特別号から知ることができる。毎朝雑誌を手にコーヒーを飲みながら、昨日の動向をチェックするバイヤーの姿を会場ロビーで見ることができるだろう。

ちなみに、このマーケット期間中、周囲の映画館は関係者試写用に押さえられている。関係者バッジを持った者だけが入場可能で、新作映画やトレーラーなどの試写を観られる。一般的に映画館では考えられないことだが、この試写中は途中入退場はもちろん、携帯電話での通話も可能だ。もしも、今試写している映画を購入したい場合、誰よりも早く担当者に連絡をして買い付けなければならないからだ。

さて今年のAFMはどんな様子だったのだろうか? 映画売買にもデジタルの波が押し寄せている。つい15年前までは、まだVHSテープでのやり取りだった。バイヤーはVHSテープの映画サンプルが何十本も入った重いカバンを下げてミーティング会場を歩き回っていたという。その後DVDとなり、今やストリーミングでのやり取りを行う会社も多い。また、映画上映の素材もフィルムを何十巻、何百巻の購入から、今は外付けハードディスクたった1個で済んでしまう。

AFMでも、今年からオンラインスクリーニング(ネットでの試写)を開始した。AFM専用のプラットフォーム「AFM Screenings On Demand」を提供しセラー会社はAFMが始まる1週間前から作品の放映が可能になり、アメリカで実際に会ってミーティングする際にはすでに作品の試写を観てもらっいて、値段交渉から始めることができるというわけだ。セキュリティーも万全だとのことだが、やはり公開前のこの世にまだ出ていない作品なだけに、この部分はセラー側も神経質になっているようだ。

また、今年会場で目立ったのは中華圏からの参加者だった。全体でも昨年から参加者が6%UPした今年のAFMだったが、そのうち中国/台湾からの参加者は35%を占めた。自国内の制作だけでなく、ハリウッドの大作への出資などが目立つ中国。今後も勢いは続きそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラの欧州販売台数、10月に急減 北欧・スペイ

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連

ビジネス

10月米ISM製造業景気指数、8カ月連続50割れ 

ワールド

中国首相、ロシアは「良き隣人」 訪中のミシュスチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中