最新記事

ジェンダー

イスラム圏にリケジョが多い理由

2017年12月4日(月)12時05分
エリザベス・ワインガーデン

チュニジアでは高校卒業時の学力試験で進路が振り分けられる Rawpixel/iStock.

<理工学系に進む女性の比率がアメリカよりも中東諸国のほうが高いのは、経済状況のせいかそれとも教育システムが原因か>

懐かしい子守歌を聴けば、誰だって涙腺が緩む。北アフリカのチュニジアで、国立チュニス工学院の小部屋に集まった6人の女性もそうだった。誰かのスマホから聞こえてきたのはこんな歌。「......そしたらママは言うんだよ、うちの娘(こ)は立派に育って、もうすぐエンジニアになるのさと/するとみんなも言うんだよ、あの娘はすごい、お母さんの宝物だねと」

そう、彼女たち(この学校の教職員だ)は1950年代にこの子守歌を聴いて育ち、ちゃんと親の願いをかなえてエンジニアとなった孝行娘だ。

そうだったのね。調査に来ていたアメリカの女性たちも、これで納得がいった。概してイスラム圏の途上国のほうがアメリカよりも、理工系の学校に学び、理工系の職に就く女性の比率が高いのはなぜか(しかも一部の国ではさらに増加傾向にある)。その答えが、これで分かったような気がした。

1950年代、アメリカの親たちは娘がエンジニアになることなど望んでいなかった。そんなのは男の仕事と決めてかかっていたからだ。今でも、アメリカで理系の、とりわけ工学系のキャリアを選択する女性は少ない。工学専攻の大卒者に占める女性の割合は18.4%にすぎず、工学系の職場で働く女性の割合は8~34%だ。

「欧米諸国は工学やコンピューターの分野での男女格差をなくすために莫大な投資をしてきたが、基本的に失敗した」。そう語るのは、調査に当たったワシントン州立大学のアシュリー・アタークラノフ准教授だ。

アタークラノフは米パーデュー大学のジェニファー・デブア助教と共に、チュニジアとマレーシア、ヨルダンで行った調査を終えて帰国したばかり。この3国を選んだのは、09年にマリア・チャールズ教授(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)とカレン・ブラッドリー教授(ウェスタン・ワシントン大学)が発表したあるデータに注目したからだ。

チャールズとブラッドリーは、イランやウズベキスタン、サウジアラビアやオマーンのような国では理工・理数系の分野における男女格差がアメリカよりも小さいと指摘していた。例えばイランとオマーン、サウジアラビア、ウズベキスタンでは、自然科学系の学位取得者の50%以上が女性だった。またインドネシアでは、工学を専攻する学生の48%が女性だった。

原因は経済のみならず

チャールズらはさらに、世界各国で8年生(日本の中学2年生に相当)に将来どのような仕事をしたいかを尋ねた。

すると、ここでも同じようなパターンが見られた。豊かな先進国ほど「理工・理数系の仕事に就きたい」「数学や科学が好き」と答える女子生徒の数が少なかった。

なぜだろう。政治参加や高等教育の機会などでは欧米諸国のほうがずっと男女平等が進んでいるのに、なぜ理工・理数系ではイスラム系の途上国(なかには性差別的な法律の残る国もある)に負けているのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標や企業決算見極め

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米指標やFRB高官発言受け

ビジネス

ネットフリックス、第1四半期加入者が大幅増 売上高

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中