最新記事

核兵器

米ロの新たな軍拡競争 オバマ政権の核兵器近代化が引き金に

2017年12月1日(金)18時27分

オバマ前大統領による核兵器の近代化は、共和党議員らが軍縮戦略に抵抗を示したことで、当初のビジョンとは違う道をたどり始めた。

オバマ前大統領は新STARTを早期批准したい考えだったと、元ホワイトハウス当局者らは言う。核の緊張緩和の他に、当時行われていたイラン核開発を巡る協議にロシアの協力が不可欠だとオバマ氏は考えていた。

当時、オバマ大統領は共和党のジョン・カイル上院議員(アリゾナ州選出)の抵抗に遭っていた。上院で共和党の院内幹事を務めていた同議員は、新STARTを否決するのに十分な数の共和党議員を集めた。

だが結局、カイル議員はある条件と引き換えに、新STARTの可決に賛成する意向を示した。その条件とは、残存する米兵器の大規模な現代化を米政権に迫るものだった。オバマ大統領は同意し、上院は2010年会期の最終日に可決した。

新たな軍拡競争

新STARTでは、核弾頭数や運搬手段の数が制限されているものの、兵器のアップグレードや、古い兵器を全くの新型でより強力な兵器と取り替えることは禁止していない。その結果、兵器の近代化によって、米ロ関係を不安定化させ、新たな軍拡競争を引き起こしたと、オバマ政権時の顧問や外部の軍縮専門家らは指摘する。

同政権で核不拡散担当の特別補佐官を務めたジョン・ウォルフスタール氏は、比較的少ない数の兵器でも壊滅的な軍拡競争となり得るとの見方を示した。

新STARTは、陸上や潜水艦から発射される弾道ミサイルや水素爆弾、巡航ミサイルといった兵器の「運搬」方法の設計については全く言及していない。したがって、米ロ双方は自国兵器の殺傷力を飛躍的に向上させ、運搬手段もアップグレードしている。そのため、核弾頭や運搬手段の数を増やすことなく、兵器はより大型化し、精度を高め、危険な新機能も搭載されるようになった。

3月1日に発行された「原子力科学者会報」の記事は、米国の弾道ミサイルの「殺傷力」は約3倍になったと指摘。米国の近代化プログラムは「米国が保有する弾道ミサイルの照準能力を大いに向上させる革新的な新技術を導入した」と、筆頭著者で米科学者連盟の核情報プロジェクトの責任者を務めるハンス・クリステンセン氏は記し、「驚くべき能力増強だ」と述べている。

クリステンセン氏によると、最も懸念すべき変化は、改良された新型の潜水艦発射弾道ミサイル「トライデントII」だという。これには核弾頭に爆発するタイミングを伝達するセンサーを使用する新たな「ヒュージング」装置を搭載している。長いあいだ、トライデントのヒューズ(信管)は不正確で、わずか20%程度の命中率だった。新たなヒューズは「百発百中」だと同氏は言う。

新STARTの下では、米国のオハイオ級原子力潜水艦14隻がトライデント20発を装備している。トライデント1発当たり、最大12発の核弾頭が搭載可能だ。トライデントIIの公式射程距離は7456マイル(約1万2000キロメートル)で、地球外周の約3分の1にあたる。実際の射程距離はそれよりも長いことはほぼ確実だと、外部の専門家らは指摘する。トライデントIIが搭載する主な核弾頭1発あたりの威力は475キロトンで、広島に投下された爆弾の約32倍だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中