最新記事

教育

飛び級を許さない日本の悪しき年齢主義

2017年11月16日(木)15時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

「落第」と言えば、日本の小・中学校でも落第(原級留置)は制度上あり得るが(学校教育法施行規則第57条)、現実にはほとんど皆無であることは誰もが知っている。しかし他国では違い、フランスでは15歳生徒の15.7%が、小学校ないしは中学校で落第したことがあると答えている(OECD「PISA 2015」)。同じ数値を64カ国について計算し、高い順に並べると<表1>のようになる(日本は0.0%と仮定)。

maita171116-chart02.jpg

トップはアルジェリアで、小・中学校での落第経験率が6割近くになる。上位には発展途上国が多いが、おそらく児童労働の問題も絡んでいるのだろう。背景色をつけた主要国でも落第経験者は皆無ではない。

日本では、義務教育段階で落第させるのは「可哀想」という思いが強くあり、年齢を重ねたら自動的に進級させる「年齢主義」が採られている。一方、フランスなどの諸外国では、課程の内容を習得しないまま進級させることこそ「可哀想」とみなされる(課程主義)。

どちらが良いという話ではない。日本に欧米流の課程主義の方式を持ち込んだら、大きな混乱は必至だ。前の学年の内容を随時復習させるなど、日本の慣習に即したやり方で形式的進級の問題を克服することが現実的な対応だろう。

しかし落第はともかく、飛び級はもっと適用しても良いように思う。14歳で数学検定1級と取ったとか、小学校低学年で優れた文芸作品を発表したとか、幼くして才能を発揮する子どももいる。そうした特別な才能を伸ばすことは今後求められる。

教育、とりわけ義務教育の目的は「調和のとれた人間形成」だが、金太郎飴のごとく均質な「バランスのとれた」人間を育てる必要はない。斬新なイノベーションが重要となる21世紀では、少しくらいバランスに欠けていても特定分野の才能がずば抜けている逸材はもっと出てきていい。皆が同じ時間に出社し、同じ制服を着て、同じやり方でモノを大量生産する「20世紀型」の工業社会は終わったのだ。

日本の労働生産性の低さは、年齢による役割規範が強すぎること、年齢によって才能を抑えつける風潮があることとも関連しているのではないか。

悪しき年齢主義を打破するには、履歴書の年齢記入欄を撤廃することから始めるのが良いかもしれない。年齢を記した履歴書を求めたり、求人票に「~歳まで」と書いたりすることは、諸外国では年齢差別以外の何物でもない。

いくつになっても学び直しができ、一定期間休んで(引退して)再び仕事に戻れる。そんな柔軟なライフコースを可能にすることが望まれる。それは、個人の幸福だけでなく、少子高齢化や労働力不足が進む日本にとって必要不可欠だ。

<資料:内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)、
 OECD「PISA 2015」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中