最新記事
エアライン

赤ちゃんまで搭乗トラブル 改善されないカナダの「テロ警戒人物」リスト

2017年11月10日(金)18時00分
モーゲンスタン陽子

Al Jazeera English-YouTube

カナダには、テロ関与などの疑いがもたれる人物の航空機搭乗を阻止する「パッセンジャー・プロテクト(乗客保護)」という政府主導のプログラムがある。一般に「ノー・フライ・リスト」と呼ばれるこのリストには約2,000名ほどが記載されているが、記載者と同名の乳幼児までもが手続きの遅延、パスポート没収、搭乗拒否などの被害を受けている。

何年経っても改善されないシステム不備に業を煮やした保護者たちがついに「ノー・フライ・リスト・キッズ」というキャンペーンを開始。著名人や政府関係者の署名を集め、11月6日にオタワの国会議事堂を訪問、システムの改善と、そのための来年度の予算捻出を訴えた。

生後数週間の赤ちゃんも

バンクーバー島に暮らすアライア・モハマドちゃん(4)の家族はこの夏旅行をしたとき、アライアちゃんの出生証明書またはパスポートのコピーを国境管理に送り、身元確認後にエア・カナダのマネジャーの承諾をもらってからでないと搭乗券を受け取れなかったという。帰国時のトラブルを避けるため、家族は今後予定していたイギリスの親族訪問を取りやめたという(CBC)。

また、元カナダ軍特別部隊のジェフ・マシューズ氏と、現役兵士の妻も、ノー・フライ・リスト・キッズに名を連ねる。息子の名がリストにあることを夫婦が知ったのは、彼が5歳のときだったという。夫婦共々国防に関わる仕事をしてきたにもかかわらず子供が不当な扱いを受け、憤りを隠せないようだ(グローブ・アンド・メール)。

8歳のアダム・アーメッドくんのケースは、2年前アメリカにホッケーの試合に行く途中空港で足止めを食らったことで国際的な注目を浴びた。父親サレマーンは8年前から改善を求めているが、有言不実行である政府を非難している。ノー・フライ・リスト・キッズ参加者たちによると、生後数週間の乳児までもが同様の扱いを受けているという(アルジャジーラ、CBC)。

もちろん、リストの個人と同名の大人も同様の迷惑を被ってはいるだろう。ただ、人生の早い段階で何度も繰り返し足止めを食らう乳幼児の保護者たちは、将来これがずっと続くのかという焦燥感から、政府に訴え出る決意をしたようだ。3歳半のセバスチャンくんの母親ヘザー・ハーダーは「(セバスチャンは)明らかに安保に対する脅威などではない」と言い、海外旅行にも行けない現状や将来に対する不安から、一刻も早い改善を望んでいる(カナディアン・プレス)。

アメリカのような独立システムを

昨年6月、政府は調査団を設立、空港でのチェックイン時などに使用できる個別IDナンバーを提案。しかしながらシステムが完全に機能するには18ヶ月を要し、結局は空港での拘束、パスポートの没収、フライトを逃すなど、さらなる混乱を招いた。

アメリカにも同様のシステムがあるが、カナダのシステムはアメリカのように政府による独立したものではなく、航空会社が政府に提供する情報に頼るかたちになっているところに問題があるようだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中