最新記事

アジア太平洋

トランプのアジア歴訪で中国包囲網を築けるか

2017年11月2日(木)19時40分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所日本部長)

この戦略は、海洋を軍事・経済の両面から支配することの重要性を唱えた19世紀の海洋史家マハンの理論に基づいており、ここには数々の利点がある。なかでもアメリカにとって有利なのは、中国の影響力拡大を警戒するアジアの同盟諸国が、パワーバランスを保つために自ずと中国から距離を置くようになることだ。

一方で、疑問もある。アメリカ自身が「自由で開かれた貿易ルール」を拒んでおきながら、自由で開かれたインド太平洋戦略は成り立つのか、という疑問だ。

この戦略は、韓国を微妙な立場に追いやることにもなる。各種世論調査によれば、米軍による韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に反対して中国で起きている韓国叩きに対し、韓国人は危機感を抱いている。北京では、韓国製品の不買運動も起きた。だが韓国政府は、日本、オーストラリア、インドと比べると、中国政府と真っ向から対立することに及び腰だ(韓国は他の3カ国と比べて、中国の海洋進出にまつわる対立も少ない)。

北朝鮮問題で韓国に何を言うか

トランプと韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の関係も微妙だ。韓国政府はトランプを国賓として迎えるが、トランプは北朝鮮について何を言い出すのか、来る途中にも予期せぬツイートを投稿するのではないか、と気を揉んでいる。

アメリカは北朝鮮に対して軍事的な選択肢を行使する準備ができていると表明することは、絶対に必要だ。北朝鮮の核攻撃を阻止するためなら、先制攻撃も辞さないと言ったのもそうだ。だが、もし外交努力が失敗すれば、アメリカは北朝鮮を先制攻撃する用意があると主張したトランプの発言は、中国の支持を得られなかったばかりか、韓国を余計に警戒させた。韓国はアジアの中で、アメリカと中国の間を揺れ動く「スイング・ステート(激戦州)」になるかもしれず、トランプには韓国の支持を失う余裕などない。

ビル・クリントン元大統領やオバマなど、歴代のポピュリスト大統領たちは、大統領選中の自分の発言に対するアジア諸国の反応を見極めてから、初めて現実的なアジア戦略を描いた。トランプは人の話を聞くのが苦手だが、今回のアジア歴訪で最も重要なことは、アジアの声に耳を傾けることだ。

(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米

ビジネス

中国、デフレ圧力解消へ規制強化方針 習氏が党経済政

ビジネス

米利下げ、年内3回にゴールドマンが引き上げ 関税影
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中