最新記事
中東

「一個のおむすび」と浅草花やしきで平和について考えた

2017年9月29日(金)16時00分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学・国際教育センター准教授)

浅草花やしきの「花やしき一座」(筆者撮影)

<中東では日本の現状からは想像もできない戦乱が続いている。子どもたちを連れて訪れた遊園地で筆者が教えられた、平和へのヒントとは?>

先日、本屋で面白い本を手に入れた。あまりに面白いから、皆さんにその本を紹介したいと思う。「朝のかたち」(角川文庫)で、詩人の谷川俊太郎さんが書いた詩集だ。


あそこでは
そうあの廃坑になった町では
おべんとうのある子は
おべんとうを食べていた

そして
おべんとうのない子は
風の強い校庭で
黙ってぶらんこにのっていた

その短い記事と写真を
何故こんなにはっきり
記憶しているのだろう

どうすることもできぬ
くやしさが
泉のように湧きあがる

どうやってわかちあうのか
幸せを
どうやってわかちあうのか
不幸を

手の中の一個のおむすびは
地球のように
重い

(「おべんとうの歌」)

谷川さんの言葉はミクロの世界から見事にマクロの世界へと飛び、何だか「人ごとだと思えない」と感じずにいられない。

「カタールからアルジャジーラのニュースをお伝えします」――私は毎月数回、NHK・BS放送のニュース番組で、世界をしばしば震撼させるアルジャジーラニュース(アラビア語ニュース)を日本語に直して伝える仕事に携わっている。職種は、放送通訳という特殊な通訳業である。映像を見ながら翻訳原稿を書いているときは、ほとんど時間がなくて、ご飯もおにぎりか何かで済ませることが多い。

そんな慌しくせっぱ詰まった状況の中で、少しでもアラブの生の声を伝えようと翻訳作業に取り掛かるのだが、アルジャジーラが流す映像を見るたびに、いつもどん底に突き落とされたような無力さを感じる。

そこで谷川さんの言葉が頭に浮かんできて、「どうしたらいいのかな」と自問。映像の向こうで必死に危険を逃れようと逃げ回る人々や子供たちの姿と、高層ビルの一角で平穏に「おにぎり」を食べている自分の姿は、まるで谷川さんのあの詩だ。人と人が、幸せ、または不幸を果たして分かち合えるのだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中