最新記事

中国

人民元改革「逆行」の背景 なぜ中国の経済政策は風見鶏的なのか

2017年7月10日(月)17時30分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

Jason Lee-REUTERS

<中国は人民元の透明化・国際化を推し進めていたはずだが、5月下旬、当局の裁量を強める措置が発表された。なぜ中国経済は「変調」のネタに事欠かないのか>

日本には「中国経済崩壊本」という書籍ジャンルがあるようだ。アマゾンで「中国 崩壊」をキーワードに検索すると、214点もの書籍がヒットする。

さすがに最近では食傷気味の人も増えたようで、私が中国関係の記事を書いていると知ると、「いつになったら崩壊するんですか?」「崩壊詐欺ですよね」などといじめられることも。私は崩壊本を書いたことがないのでひどいとばっちりなのだが、まあ書店に並ぶ本のタイトルを見ていれば文句を言いたくなる気持ちもわからないではない。

私はそうした「崩壊本」は書いていないが、しかしながら書きたくなる理由もよくわかる。というのも、ネタが豊富すぎるほどあるからだ。例えば、5月の人民元レート改革だ。

5月26日、中国外貨取引センター(CFETS)が「人民元中間価格決定に逆周期調節因子を導入する」と発表したことをご存じだろうか。

CFETSは毎営業日朝に基準値を発表し、取引価格は基準値の上下2%以内の変動にとどまるよう規制されている。前営業日の取引結果を踏まえて、新たな基準値が決められるという構造だ。人民元の国際化を目指す中国当局は、一定の規制を掛けつつも、より透明性の高い為替取引を実現する方向で改革を進めていた。

ところが「逆周期調節因子」はその流れに逆行するものだとして話題となった。CFETSによると、逆周期調節因子とは人民元基準値を決定する際に導入される判断材料だ。

元安であれ元高であれ、一方的な流れが加速している場合には投機が投機を呼ぶ群衆行動につながってしまう。そこで、マーケットの流れとは逆行的な値付けをすることによってマーケットの感情的な動きを抑制するのだという。投機抑制というと聞こえはいいが、当局による裁量が強まり、透明性が失われる可能性が高い。

中国は近年、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)入りを目標に、為替市場の透明化、自由化を強硬に推し進めていた。2016年秋には無事にSDR入りを果たしたが、その後の元安圧力の高まりを受けて政策をがらりと転換してしまったわけだ。

通貨政策のみならず、景気対策や金融政策においてもこうした風見鶏的急展開は少なくない。中国「変調」のネタには事欠かないのだから、崩壊本も書きやすいというわけだ。

【参考記事】「人民元は急落しません!」で(逆に)元売りに走る中国人

通貨統一、偽札流通工作、広東省限定通貨......人民元の興亡

こうした政策転換をいちいち騒ぎ立てるのも一興かもしれないが、もう少し長いタイムスパンで眺めると、中国がなぜこうも転換を繰り返すのか、その構造的要因が見えてくる。清朝末期以来、約150年間という長い歴史的視野で人民元とその政策の変遷を追った大著『人民元の興亡――毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(小学館)を上梓された吉岡桂子さん(朝日新聞編集委員)に話を聞いた。

同書の冒頭で語られるのは、人民元による中国史上初の通貨統一だ。中華民国期まで中国各地にはさまざまな通貨が存在していたという。無数の通貨が乱立する中、いかに統一を成し遂げるかが課題であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権が「麻薬船」攻撃で議会に正当性主張、専門家は

ビジネス

米関税で打撃受けた国との関係強化、ユーロの地位向上

ワールド

トランプ氏、職員解雇やプロジェクト削減を警告 政府

ワールド

インドと中国、5年超ぶりに直行便再開へ 関係改善見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中