最新記事

韓国政治

トランプに冷遇された文在寅が官僚を冷遇する

2017年7月8日(土)11時10分
前川祐補(本誌記者)

もっとも、文が大統領になった経緯を考えれば官僚主導から政治主導への動きは自然な流れだ。朴政権時代に起きた旅客船セウォル号沈没事故では、官僚と業者の癒着による違法な船体改造が事故原因の1つと指摘され、世論では「官僚マフィア」の政治力を弱める声が高まっていた。

ただ、行き過ぎた政治主導に警鐘を鳴らす声はメディアにも広がっている。韓国最大紙の朝鮮日報は「大統領は自分とウマの合う人を大臣に指名することができるが、今回の人事は度を越えている」と指摘。実績や能力のある官僚を排除する方針は「国政を市民団体感覚で処理している」と厳しく批判した。

【参考記事】習近平「遠攻」外交で膨張する危険な中国

こうした文政権の方針をかつての日本の民主党政権になぞらえて先行きを懸念する声もある。ネットメディア大手のプレシアンは、09年に自民党を倒した民主党政権が沖縄の基地問題で外務省や防衛省官僚と軋轢を生み、米政府からも反発を受けて求心力を失ったと指摘。「楽観的思考に陥って失敗した日本の民主党の政権運営から教訓を得なければならない」と、戒めている。

トランプから与えられた宿題に、文は政治主導で対応するだろう。ただ、露骨な官僚排除を続ければ政策の実行段階で行き詰まる恐れもある。特にトランプがこだわる貿易赤字の解消には、米韓自由貿易協定(FTA)交渉を行った官僚の経験値が不可欠。もし文が彼らをさらに排除すれば反発は必至だ。帰国した文を待っていたのは「官僚マフィアの逆襲」かもしれない。

[2017年7月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ

ビジネス

再び円買い介入観測、2日早朝に推計3兆円超 今週計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中