最新記事

トルコ

トルコの反政府活動家、苦肉の策の「無人ビラ撒きプリンター」

2017年7月5日(水)17時30分
ジャック・ムーア

エルドアン大統領を侮辱すると最高4年の実刑判決を食らいかねない Umit Bektas-REUTERS

<エルドアン大統領の強権体質に抗議するビラ捲きで、活動家がまんまと逃げおおせた仕掛け>

トルコのイスタンブール警察は現在、あるドイツ人活動家を捜索している。ホテルの一室の窓から、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領に対する抗議活動を呼びかけるビラを撒いた容疑だ。部屋からは、ビラを印刷したプリンターが発見されている。

ドイツのウェブサイト「Bento」によると、そのビラには、「仲間が殺されたり、投獄されたりするのを許すような、意志のない追随者になるな」と書かれていたという。また、「力を合わせれば、我々はどんな体制よりも強くなれる。独裁者に死を!」とも書かれていたようだ。

ビラが撒かれたのは2017年7月1日の朝のことで、ホテルの従業員がすぐ警察に通報した。

イスタンブールのタクシム地区にあるそのホテルの一室は、26歳のドイツ人セバスティアン・エンデンの名前で予約されていた。

「センター・フォー・ポリティカル・ビューティー」(ZPS)に所属するあるドイツ人活動家がBentoに語ったところによると、今回の行動は同組織によるものであるようだ。ZPSは、政治的積極行動主義に基づく抗議行動を展開しており、過去にも「独裁政権」に反対してビラを配布するキャンペーンを呼びかけている。

エルドアンは最近、トルコ野党と欧州連合(EU)加盟国から激しい批判を浴びている。2016年7月に起きた「軍事クーデター」失敗の後、急速に独裁色を強めつつあるからだ。

【参考記事】トルコは「クーデター幻想」から脱却できるか
【参考記事】民主主義をかなぐり捨てたトルコ
【参考記事】トルコにあるアメリカの核爆弾はもはや安全ではない

警察は、何百枚も通りにばらまかれたビラの出所が、遠隔操作されたプリンターであることを突き止めたという。トルコの日刊紙デイリー・サバーによると、印刷機はホテルの部屋の窓際に置かれ、印刷されたビラが通りに撒かれる仕掛けになっていた。


ZPSのフィリップ・ルフは今回の行動について、親政府派メディアであるデイリー・サバーが報じているような「単独のドイツ人によるもの」ではなく、ボランティア数人で複数のプリンターを別々のホテルに置いたという。「プリンターは4台用意した」とルフは主張する。「それぞれをチャーチル1号~4号と呼んでいた」

「大統領侮辱罪」で2000人

エンデンが偽名なのか、あるいは現在逃走中の人物なのか、いまのところまだわかっていない。デイリー・サバーは、エンデンの写真と彼のIDカードをサイトに掲載した。ホテルの話では、エンデンは6月30日にチェックアウトしてから部屋には戻っていないという。エンデンは飛行機で既にドイツに逃げた可能性もある。

エンデンの容疑は不明だが、トルコでは「大統領侮辱罪」に対して最高で4年の実刑判決が待っている。

トルコ検察当局は、2014年8月の大統領就任から2016年半ばまでの間に、エルドアンを侮辱した容疑で市民約2000人が起訴されている。被告人のなかには元ミス・トルコや学生、学者、メディア関係者なども含まれている。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、中国生産30年に60万台以上積み増し、現地

ビジネス

中国10月CPI、前年比+0.3% 4カ月ぶりの低

ワールド

トランプ氏刑事手続き、連邦地裁が延期認める 議会襲

ワールド

米司法省、トランプ氏暗殺計画巡りイラン在住の男起訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫ファンはK-POPの「掛け声」に学べ
  • 2
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代型省エネコーティング」で地球規模の省電力を目指すビルズアート
  • 3
    「ハリス大敗は当然の帰結」──米左派のバーニー・サンダース上院議員が吠える
  • 4
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困…
  • 5
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 7
    ハリス氏惨敗の背景に「アメリカ中流階級の生活苦の…
  • 8
    小児性愛者エプスタイン、23歳の女性は「自分には年…
  • 9
    ネアンデルタール人「絶滅」の理由「2集団が互いに無…
  • 10
    世界中で「キモノ」が巻き起こしたセンセーション...…
  • 1
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウクライナ軍と北朝鮮兵が初交戦
  • 2
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 3
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄道計画が迷走中
  • 4
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 5
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 6
    「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが…
  • 7
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫フ…
  • 8
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困…
  • 9
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代…
  • 10
    投票日直前、トランプの選挙集会に異変! 聴衆が激…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 6
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 7
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中