最新記事

シリア

ポストISIS、トランプ版「最小限」の復興支援が始まった

2017年7月3日(月)21時30分
トム・オコーナー

5月、ISISが掃討された後のタブカ。壁にはまだISISの旗の絵が残ったまま Rodi Said-REUTERS

<シリアのISIS支配に終わりが見え、「首都」ラッカにほど近いタブカが、トランプの復興支援の実験場になっている>

ISIS(自称イスラム国)が一掃されたシリア北部の要衝タブカが、ドナルド・トランプ米大統領のポストISIS戦略の試金石としてクローズアップされている。

【参考記事】ISISの終わりが見えた

ISISが首都と称するラッカからわずか50キロのタブカは、クルド人とアラブ人の混成部隊で、米軍率いる有志連合の支援を受けたシリア民主軍(SDF)が5月に奪還した。

有志連合の調整役であるブレット・マクガーク米大統領特使は先週木曜にタブカを訪れた。数年に及ぶISISの暴力的な占領政策と数カ月の戦闘で、インフラは破壊され尽くしていた。

トランプはポストISIS戦略の一環として、シリアで戦う軍事司令官の戦場での権限を拡大した。また国務省の専門家と民間人から成る少人数のグループに地域の安定化と復興を託した。

現地の人々が率先して復興と取り組んでくれることが米政府の望みなので、マクガークは主にタブカの市議会や行政府のメンバーと会談したと、ニューヨーク・タイムズは伝えている。

大統領選の間、トランプはアメリカが中東諸国の復興支援に関わり過ぎたことを批判した。そしてシリアにおけるアメリカの主目標は、バシャル・アサド大統領を倒すことではなく、ISISの掃討であるべきだとした。

しかし、現実はこうした目標の達成を難しくしている。アメリカの交渉相手は地域の中央政府のようなものではなく、くっついたり離れたりを繰り返す数え切れないほどの地域勢力だ。

タブカが直面する問題の一つは、シリアの隣国トルコが、タブカ向けの国際的な援助がトルコ国境を通過することを拒絶していることだ。トルコがテロリストと見なすクルド人とアメリカが手を組んだことで怒っているのだ。

その結果、タブカの住民は食料も重機も医薬品も、米政府と米軍に頼らざるをえない状況だ。

法と秩序の回復が必須

子供たちをイデオロギー的肉体的に立ち直らせるのも大きな課題だ。ISISの戦闘員に何年も洗脳され過激化した若者は、感染症のように拡大している。

本物の感染症もある。「瓦礫の中には何千、何百という遺体が埋まっている。遺体には蝿が群がる。その蝿に噛まれた子供が感染症にかかっている」と、米国際開発庁のアル・ドワイヤーはニューヨーク・タイムズ紙に語った。

シリアには必要最低限しか関わるまいとするトランプのやり方では、これから山積みの課題は克服できない、と批判派は言う。

【参考記事】シリア東部はアサドとイランのものにすればいいーー米中央軍

「重要なのは、法と秩序が回復するかどうかだ。もし回復しないなら、またISISのような者たちが入ってくる」と、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院のダニエル・ソイヤー教授はタイムズ誌に語った。

国務省がタブカに派遣した専門家の数について「あまりに少ない」とソイヤーは言う。「最低でも、町が解放された後には、現地の民間人の仕事が山ほどあるということを理解してもらわなければならない。成功のためには、もっと資源を投入する必要がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中