北朝鮮問題をめぐって、G20米中露日韓の温度差

2017年7月10日(月)00時08分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

アメリカでは中朝貿易の70%が丹東銀行を通して行われているとして制裁対象にしたようだが、実はこれは5月1日付けコラム「中国は北にどこまで経済制裁をするか?」で書いた、いわゆる「辺境貿易」に使われているにすぎず、中国にはそう大きな痛手にはなっていない。しかし韓国にとっては「大きな威嚇」に映ったにちがいない。

それはまるで、拙著『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰だ』(7月19日発売)で「ビッグ・ディール(大口取引)第二弾」と位置付けたシリア攻撃を彷彿とさせる。トランプは4月6日、フロリダの豪邸で習近平と「世界一おいしいチョコレートケーキ」を食べながら、「いま実はシリアに59発、ミサイル攻撃した」と述べてから翌日の実務的な会談に臨んだ。これは、「このように簡単に北朝鮮を軍事攻撃することができるんだよ」というシグナルであると習近平を威嚇しながら、にこやかに交渉を進めていくトランプ流のディール(取引)のやり方だ。

結果、文在寅は、習近平には「環境評価をするためTHAADの新たな配備は延期する」と、事実上の「中断宣言」をしておきながら(参照:「韓国を飲み込んだ中国――THAAD追加配備中断」)、トランプには「THAAD配備に関する米韓合意を覆すつもりはない」と誓い、二つの顔を使い分けたのである。

怒ったのは習近平。

G20前に初めての中韓首脳会談

7月4日にモスクワでプーチンと会談した習近平は、その足でドイツのハンブルグで開催されるG20首脳会議に参加するため、先ずはドイツのベルリンに向かった。5日にドイツのメルケル首相と歓談し、サッカーを観戦したりベルリン動物園パンダ館の開館式に出席したりなどして満面の笑みを披露したあと、文在寅と会談した。

文在寅に対しては、突然、上から目線に切り替わり、文在寅が「北との会話」を重要視することは評価しながらも、結局トランプにはTHAAD配備を受け入れたことに対して、習近平は報復としての経済制裁をやめないことを示唆したのである。文在寅が習近平に報復措置を是正するよう求めたのに対し、習近平はそれを肯定しなかった。事実上、拒否した格好だ。

その意思決定は、4日の中露首脳会談ですでに確認されており、中露はTHAADに付随しているXレーダーによる探知機能が、自国の広範囲な領域の軍備配置を偵察することができるとして、韓国のTHAAD配備に反対している。

韓国のTHAAD配備は、米韓軍事度合同演習を含めた韓国におけるアメリカの軍事行動に属し、それに反対したものである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏が首位 左派は敗北へ

ワールド

ケネディ米厚生長官、2028年大統領選への出馬を否

ビジネス

米産業用機械メーカーが苦境に、関税コストの顧客への

ワールド

韓国大統領、北朝鮮との合意の順次実行を閣僚に指示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中