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トランプでも変わらない、アメリカの強固な二大政党制

2017年6月29日(木)18時20分
岡山 裕(慶應義塾大学教授)※アステイオン86より転載

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『アステイオン86』より

 それを前提に、表1をご覧いただきたい。これは、CNNの行った全国規模の出口調査について、有権者の投票行動をみる際にとくに注目される変数を選び出し、今回と、民主党現職のバラク・オバマと共和党のミット・ロムニーの間で争われた二〇一二年大統領選挙の結果を並べたものである。なお、二〇一六年についてはリバタリアン党の候補が無視できない数の票を得ているが、ここではスペースの都合で割愛している。

 両選挙の間には、いくつか重要な違いがある。例えば、しばしば指摘されるように、「持たざる者」に優しいリベラルな党という印象に反して、民主党は得票率を低学歴・低所得層で減らし、高学歴・高所得層で伸ばした。同様に、二〇歳代までの若者と、ヒスパニックや黒人といったマイノリティからの得票率が下がったのは、クリントンがオバマの支持集団を引き継げなかったことを示唆している。

 しかし、表全体を見渡すと、性格が大きく違う割には二つの選挙で投票の傾向が類似していると感じるのではないだろうか。とくに、どちらの選挙でも各政党の支持者は約九割が支持政党の候補に投票しているのは驚きといえる。二〇一二年は党内で圧倒的に支持された現職大統領と穏健な党主流派の対決だったから当然としても、二〇一六年のクリントンはオバマの後継者を任じながら、エスタブリッシュメント候補として党内外から反感を買っていた。トランプに至っては公職経験がなく、共和党を支持してきたわけでもその主張を踏襲したわけでもなく、同党の指導層とも険悪な関係にあったのである。

 今回の選挙で、白人ブルーカラーら「忘れられた人々」によるトランプへの投票が注目されたのは当然である。しかし、トランプというおよそ最も共和党的でない候補が、暴言と虚偽だらけの異様な選挙戦を展開したにもかかわらず、大多数の票が政党支持に即して投じられた、その意味で大筋で通常通りの結果が生じたという事実も見逃すべきでない。政治学者のラリー・バーテルズは、州別の得票率にも目立った変化がないのを踏まえて、この選挙は「普通の選挙」だと言いきっている。(Larry Bartels (2016), "2016 Was an Ordinary Election, not a Realignment," Washington Post, 10 November)

強固な二大政党制

 今回の特異な選挙は、従来政治的に顧みられなかったアメリカ社会の分断を健在化させた一方で、有権者レベルで二大政党制の枠組みが極めて堅固なことを浮き彫りにしたという二面性を持っている。例えば、トランプが散々愚弄した女性やヒスパニックといった集団の票が大して民主党に流れなかったのは、彼の経済政策に期待した者が多かったこと等も考えられるにせよ、元々の政党支持が強く作用したという要素も無視できまい。

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