「準備はどう?」と質問されて「順調です」と答えてはいけない
だが実際のところ、質問は、大発見やイノベーションの「可能性」「きっかけ」を与えてくれるにすぎない。疑問が浮かんだだけではノーベル賞を取れないし、いくら「なぜ?」という質問を繰り返したところで、問題を解決するアイデアがなければイノベーションは起きない。
これが「質問の限界」だとヴァンス博士は言う。
そしてこの限界は、「質問」と「答え」の力関係の宿命だ。「質問」はトピックを提供するだけであって、そこから論点を決定し、その後の行動や思考を形成していくのは「答え」と決まっている。
だから質問がどんなにすばらしかったとしても、それは夢のような可能性を提案してくれるだけであって...(略)...良い質問も、答えのための優秀なお膳立てに過ぎず、その可能性を生かすも殺すも、あくまでも相手の答え方次第と言わざるを得ない。(30~31ページ)
質問から「リープ」し、価値ある情報を追加する
こうしたことは、日常的なコミュニケーションにおいても言える。どんなに質問力を磨いて、「相手の話を引き出すテクニック」を駆使しても、相手が単純な答えしか返してくれなければ会話は広がらない。つまり、会話の主導権を握っているのは、いつでも答えなのだ。
言い換えれば、どんな質問であっても答え方がうまければ、不毛に終わったかもしれない会話を、建設的で有意義なコミュニケーションへと変えることができる。
相手が求めている情報を適切に与えるだけでなく、知識を深めたり、人間関係を良くしたり、パフォーマンスを向上させたりするのも、すべて答え方次第だ。さらに、巧みな答え方によって自分の価値を高め、評価を上げることもできる。それが、成功への扉を開いてくれるという。
そうした答え方を、ヴァンス博士は「質問をリープする戦術」と呼ぶ。リープ(leap)は「跳ねる」「跳躍する」という意味で、要するに、ただ質問されたことだけに答えるのではなく、自分と相手の目的にとって価値ある情報を追加して答えるのだ。
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東アジアの人は「忠実すぎる答え」をしがち
もちろん、まずは相手が聞きたいことを答えるのが大前提だ。しかし、相手と深い関係を築いたり、相手に自分をアピールしたりするには、質問に忠実に答えるだけでは足りない。会話が盛り上がらず、自分の本当に伝えたいことも切り出せずに、逆効果に働いてしまうこともある。
実は、東アジアの人々は、とくに「質問に忠実すぎる答え」をしがちだという。ヴァンス博士がまとめた統計によると、同じ質問に対して東アジア人の答えは、それ以外の人たちの答えよりも単語数が47%も少なかったそうだ。
「質問に忠実すぎる答え」とは、たとえば上司から「プレゼンの準備はどう?」と聞かれて「順調です」とだけ答えるようなもの。これでは、質問が与えてくれた「可能性」「きっかけ」を無視したも同然。何も変わらず、ゼロのままだ。