最新記事

脳科学

顧客に記憶させ、消費行動を取らせるための15の変数

2017年6月20日(火)21時32分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Siphotography-iStock.

<驚き、斬新さ、感情、文脈......これらの変数をいかにうまく組み合わせるか。脳科学が解き明かす、顧客に忘れられないためのビジネス戦略>

人の行動の9割は記憶に基づくといわれる。ビジネスにおいては、いかに顧客に自社の商品やサービスを記憶してもらい、消費行動を取ってもらうかが重要だ。だが、そうはいっても、自分にとって重要な事柄を他人に記憶させる方法などあるのだろうか。

人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、行動させるための「キュー」の出し方』(小坂恵理訳、CCCメディアハウス)の著者、認知科学者のカーメン・サイモンによれば、答えはイエス。Adobe、AT&T、マクドナルド、ゼロックスなどの大企業を顧客に持つサイモンは本書で、"忘れさせない"実践的なテクニックを紹介している。

そこで重要なのは、驚き、斬新さ、感情、文脈といった15の変数だ。それらをすべて覚えて使う必要はなく、大事なのは組み合わせである。「従来の型にはまらない曖昧な刺激を正しい比率で組み合わせられるようになれば、あなたについての記憶は相手の心に残り、狙い通りの行動が引き出されるだろう」とサイモンは言う。

ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて転載する。第2回は「第1章 記憶は目的のための手段である――意思決定に記憶が重要な理由」から、記憶とは何か、15の変数とは何かについての導入となる項を抜粋する。

※第1回:謎の大富豪が「裸の美術館」をタスマニアに造った理由

◇ ◇ ◇

(前略)ひとつの要因だけでは、何かを記憶にとどめてもらうことはできない。正しい割合で複数の要素が組み合わされて、はじめて記憶は他人の心に残るものだ。たとえばコーヒーにスプーン1杯の砂糖を入れればおいしくなるが、3杯も入れたら甘すぎて飲めたものではない。同じことは記憶にも言える。驚きは記憶に残る要素だが、あまりにも多すぎると相手は当惑する。驚かされた部分が記憶にとどまる点は変わらなくても、それは本来とはべつの理由からで、思いがけない感情が引き出されてしまう。

 では、どのような要素を組み合わせれば、他人の記憶に影響を与えられるのだろう。記憶の変数を正しい比率で組み合わせる方法についてはこれから紹介していくが、その前に、記憶の定義について意見を統一しておかなければならない。記憶は多くの人にとって、多くの事柄を意味するからだ。

 最近とった休暇について考えると心に光景が思い浮かぶのは、思い出が記憶されているからだ。久しぶりにプールに入ったときに泳げるのも、嫌いな食べ物について考えるとむかつくのも、スーパーまで迷わずに行けるのも、『モナ・リザ』に眉毛がないことを知っているのも、すべて記憶のおかげだ。これだけ様々なタイプの記憶は、複数の記憶システムによって支えられている。そして記憶を研究するためにも様々な方法があるが、正式な研究においては、情報を符号化してから蓄積して検索するプロセスが記憶だという定義が採用されている。ほかには記憶を持続時間によって分類する方法(短期記憶と長期記憶)もあるし、宣言記憶(言葉にする記憶)と手続記憶(習慣やスキル)に分類する方法もある。

【参考記事】科学が効果を証明! 効く口説き文句はこれだ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中