最新記事

インドネシア

イスラム急進派代表にポルノ容疑でインドネシアに問われるバランス感覚

2017年5月31日(水)16時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

一方のリジック代表はある動画の中で「スカルノのパンチャシラは尻の下にある」と発言し、それが建国の父スカルノ初代大統領と国家原則「パンチャシラ」への侮辱に当たるとして告発され容疑者認定されていた。

【参考記事】イスラム人口が世界最大の国で始まったイスラム至上主義バッシング

その上に今回のポルノ規制法違反が加わり、宗教指導者として「これ以上ない恥」を世間に晒す羽目に陥った。リジック容疑者の弁護士などは「警察など組織による恣意的人権侵害だ」と容疑そのものを否定し、国際的人権団体に「被害」を訴えている。

リジック容疑者は早々にインドネシアを出国、マレーシアなどを経由して現在はイスラムの聖地メッカのあるサウジアラビアに滞在中。警察の帰国要請に応じる気配はない。

弁護士は「断食月の明ける6月末以降には帰国する用意がある。逃げている訳ではない」としているが、一般国民の目には「ポルノ容疑に問われ、海外に逃避しているイスラム指導者」でしかなく、信望も人気も急落している。

インドネシアではある意味「アンタッチャブル」なイスラム教指導者ではあるが、警察も引かず、国際刑事警察機構(インタポール)を通じた国際手配の道も模索している。

国軍や警察の意思も

中国系キリスト教徒で知事のアホック氏に対し、イスラム教インドネシア人で宗教指導者のリジック容疑者と対照的な2人が相次いで「容疑者」となり司法の場でその罪を問われることになったのは、インドネシアの「多様性の中の統一」「宗教的寛容性」を断固として守るために「いずれの方向にも突出することを許さない」そして「喧嘩両成敗」という力学が働いた結果といえるだろう。

この動きはイスラム急進派、反イスラムのいずれにも組みするを良しとしないインドネシアの良心のなせる技、「バランスの振り子」がスイングした結果であり、バランス感覚を重視するジョコ・ウィドド大統領、そして社会安定の任を担う国軍・警察などの治安組織のトップらの意思と無関係ではない。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。
リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ワシントン出発 米ロ会談のためアラ

ビジネス

中国人民銀行、物価の適度な回復を重要検討事項に

ビジネス

台湾、25年GDP予測を上方修正 ハイテク輸出好調

ワールド

香港GDP、第2四半期は前年比+3.1% 通年予測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中