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インドネシア

イスラム人口が世界最大の国で始まったイスラム至上主義バッシング

2017年2月2日(木)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

しかしFPIのようなイスラム急進組織は「他の宗教、異なる文化、人種への寛容を認めない」傾向が強く、アホック知事もキリスト教徒の中国系インドネシア人であることが「狙い撃ち」され、メガワティ党首も「女性でありながら実力を備えた指導者」であることが彼らの「心中にさざ波」を起こしたとされている。

確かに1999年6月の総選挙でPDIPが第一党に躍進し、メガワティ党首が大統領になる可能性が出てきた際、「初の女性としての大統領」に対しイスラム組織から「女性大統領はいかがなものか」と難癖が付いたことがあり、メガワティ党首がこうした一部イスラム教団体の閉鎖性に言及する一幕もあった。しかし当時は全く問題視されなかった。

FPI代表への反撃に警察動く

今、逼塞状態に陥りそうなインドネシアがその寛容と統一を堅持するために最近、「イスラム至上主義」に対する巻き返しに出始めた。

イスラム教の立場を強調しながらあちらこちらで不要な摩擦を繰り返しているFPIに対し、西ジャワ州警察は1月30日、スカルノ初代大統領や「パンチャシラ」といわれる国家原則を侮辱したとしてFPIのハビブ・リジック・シハブ代表を「死者侮辱、国家シンボル侮辱罪」の容疑者に認定した。これはスカルノ初代大統領の娘にあたるスクマワティ女史が「スカルノのパンチャシラは尻にある」と発言した動画を警察に「侮辱容疑」で告発したことを受けた結果だ。

さらに国家警察はFPI の集会でアラビア文字を書き込んだ国旗が掲げられたことに対して「国家シンボルに関する法律違反」容疑で捜査を進めるなどFPIに対する対抗措置が急速に強まっている。

こうしたインドネシアの動きは、1月20日に就任したドナルド・トランプ米新大統領の政策と無関係ではない。イスラム教徒やイスラム国からの移民、入国の制限に厳しく対処する方針を示している米新政権に対し、「インドネシアではテロ組織やイスラム至上主義は野放しにはされていないことを国際社会、とくに米新政権にアピールする狙いもこのタイミングでの対応措置には反映されている」と地元紙記者は分析している。

警察の反FPI捜査に抗議するために組織されたのが冒頭の1日のデモで、FPIが組織したデモ隊はシハブ代表が事情聴取を受けていたジャカルタ中心部の警察本部前で抗議を行ったが、厳重な警備を敷いた警察部隊によって混乱には陥らなかった。

不可侵の「寛容と多様性」の精神

ジャカルタ州知事選に端を達した形のイスラム急進派によるイスラム至上運動は、単に知事選に留まらずインドネア社会の原則、根底である「寛容」「多様性」というモラルを揺るがしかねない状況に発展したことで、ジョコ・ウィドド大統領の支持母体でもあるPDIPが反FPIを鮮明に打ち出し、「見て見ぬ振り」「触らぬ神に祟りなし」から風向きが大きく変化しようとしている。

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