最新記事

米中関係

習近平は笑っているべきではなかった――米国務長官、シリア攻撃は北への警告

2017年4月11日(火)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

トランプ米大統領との晩餐会で複雑な笑顔を見せる中国の習近平国家主席(中央) Carlos Barria-REUTERS

ティラーソン米国務長官は9日、シリアへの攻撃には北朝鮮への警告があったと強調した。晩餐会でシリア攻撃を知らされた習主席は咄嗟の反応ができず肯定。隣には彼のブレイン王滬寧がいなかった。失点の影響は大きい。

ティラーソン国務長官の発言

アメリカのティラーソン国務長官は、4月10日からイタリアで開かれるG7(先進7カ国)外相会談のためであろうが、習近平国家主席が訪米を終え帰国したあとになって、米中首脳会談にも触れながら、複数の取材に対し、おおむね以下のように答えている。

●脅威のレベルが行動を取らざるを得ない状況にあることを、習近平国家主席も明確に理解したはずだ。

●(北朝鮮などが)シリア攻撃から受け取るべきメッセージは、(もし、その国の行為が)他国への脅威となるなら、アメリカは対抗措置を取る可能性があるということだ。

●いかなる国も、国際規範や国際合意に違反し、他国の脅威になれば、対抗措置を取る。

●われわれの目的は朝鮮半島の非核化だ。

つまり、こともあろうに米中首脳会談開催中にシリア攻撃を断行し、しかもそれをなぜ、こっそり(個人的に)晩餐会中にトランプ大統領は習近平国家主席の耳に入れたかというと、明らかに「北への威嚇」、「習近平への圧力」が目的だったということになる。習近平は笑顔を保っている場合ではなかったはずだ。

米中首脳会談後、共同記者会見が行われなかったのは異常事態だが、それに代わってティラーソン国務長官が会談後の記者発表をした。ティラーソンは、おおむね以下のように言った。

●トランプ大統領が習近平国家主席にシリアの詳細な情勢を説明し、習主席はシリア攻撃に理解を示した。

●習主席は子供たちが殺されたときには、こうした反撃の必要性があると理解を示した。

いうならば、まるで中国の「承諾を得ている」かのような内容だが、晩餐会における「耳打ちと咄嗟の反応」を公開したのも、外交儀礼に反するだろう。

では習近平は、なぜこのような迂闊なことを言ってしまったのか?

隣には習近平のブレインがいなかった!

晩餐会の時に習近平の隣に座っていたのは彭麗媛夫人であって、習近平のブレインではなかった。2016年4月25日日の本コラム<習近平のブレーンは誰だ?――7人の「影軍団」から読み解く>にも書いたように、習近平のブレインを一人だけ挙げよと言われたら、それは文句なしに王滬寧(おう・こねい)だ。習近平政権において中共中央政治局委員、中共中央政策研究室主任という、一見、目立たない職位だが、江沢民政権の「三つの代表」、胡錦濤政権の「科学的発展観」の起草者でもあり、三代にわたる中国の最高指導者の総設計師的役割を果たしてきた切れ者。

習近平外訪の時には、必ず「影のように」ぴったりと寄り添っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中