最新記事

イラク

【写真特集】ヤジディ虐殺の悲劇はなぜ起きたのか

2017年4月5日(水)18時15分
林典子(フォトジャーナリスト)

<バディア(1979年生まれ)> 14年8月3日、暮らしていたイラク北部の村にISISが侵攻。彼女は若い女性たちとバスでシリアのラッカに連れて行かれ、オーストラリア人の戦闘員の家で掃除係として働かされた。その後、救出されて現在は親戚とイラクの難民キャンプで暮らす(個人が特定されないように白いスカーフ越しに撮影)

<ISISの攻撃よりはるか前から中東ではヤジディ教徒への差別感情が根付いていた。ヤジディの悲劇は特殊な場所の特殊な状況が生んだものではない>

2014年8月、私は滞在中のトルコでテレビを見ていた。そこで繰り返し報じられていたのは、イラクから少数派ヤジディ教徒がトルコに逃れて来ているというニュースだった。

世界に60万~100万人いるとされるヤジディ教徒のうち、多くが暮らしていたのがイラク北西部のシンジャール山と周辺の村々だ。当時イラクで勢力を拡大し、次々に都市を制圧していたテロ組織ISIS(自称イスラム国)は、シンジャールへも侵攻してきた。

ppyajidi-map.jpg

熾烈な攻撃によって14年8月以降、ヤジディ教徒の子供や女性6000人以上が捕らえられて奴隷として売り飛ばされ、高齢者や男性など数千人が殺害されたとする報告もある。

被害を逃れた人々も、いまだ先が見えない状況が続いている。攻撃直後からシンジャール山で避難生活を送る人々はもちろん、トルコなど周辺国や遠くヨーロッパまで逃れた人たちも、多くが家族や友人を殺された悲しみを抱えながら不安の中で暮らす。

一方で、自分たちを守るために戦ったクルド人の女性兵士に感化され、武器を手に取るようになった少女たちもいる。

彼らはなぜ標的にされ、こうした悲劇的な運命をたどらなければならなかったのか。一般的には、土着の民族宗教で何世紀も独特の伝統や信仰を伝えてきたヤジディ教を、ISISが「邪教」だと断じたことが攻撃の理由とされる。

太陽崇拝や輪廻転生など多様な宗教の影響を受ける混合主義と見なされること、信仰の対象である孔雀天使タウス・マレクがイスラム教では悪魔の化身とされることなどが敵視されたようだ。

【参考記事】アマル・クルーニー、ISISの裁きを国連に訴え 「第二のルワンダにしないで」

長い歴史がある差別感情

だが、彼らの悲劇は単純な信仰の違いだけでもたらされたものなのか。その深層を知りたくて、私は15年2月から約2年間、イラクとドイツでヤジディ教徒たちの取材を行った。

そこで見えてきたのは、ISISの攻撃よりはるか以前からこの地域では彼らに対する差別感情が根付いており、長年にわたって迫害が行われてきたという事実だ。古くは1254年のイスラム王朝によるヤジディ教徒虐殺の歴史も伝えられている。

その後も彼らは、アラブ人やペルシャ人、オスマン帝国による迫害を受け続けてきた。1970年代には、イラクの副大統領だったサダム・フセインの政策で、強制的な移住が行われた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国BYDの25年決算、4年ぶり減益 国内で競争激

ワールド

トランプ米大統領「次はキューバ」、具体策には触れず

ワールド

ロシア、4月1日からガソリン輸出禁止措置 副首相が

ワールド

米トマホーク850発以上使用、イラン攻撃4週間 国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 6
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 7
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 10
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中