ニュース速報
ワールド

アングル:LAデモ対応、トランプ氏に追い込まれるニューサム加州知事

2025年06月10日(火)16時19分

 6月9日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで6日、不法移民の一斉摘発に対する抗議デモが発生した直後、ニューサム州知事(写真)とトランプ大統領が電話で会談した。写真は2024年12月、サンディエゴで撮影(2025年 ロイター/Mike Blake)

Joseph Ax Trevor Hunnicutt

[9日 ロイター] - 米カリフォルニア州ロサンゼルスで6日、不法移民の一斉摘発に対する抗議デモが発生した直後、ニューサム州知事とトランプ大統領が電話で会談した。この時の状況についてニューサム氏は8日のMSNBCで「非常に友好的」な雰囲気だったと描写し、トランプ氏は連邦政府としての対応には全く言及しなかったと明かした。

ところがその24時間後、トランプ氏はニューサム氏に話を通さずに州兵の派遣を命令。デモ参加者の怒りが増幅し、一部が暴徒化するなど事態はさらに悪化した。

このトランプ氏の思いきった行動により、州知事であると同時に2028年の次期大統領選で野党民主党の有力候補の1人とも見なされているニューサム氏は、政治的な葛藤に追い込まれた。

民主党の州知事たちは、気まぐれなトランプ氏に対応する最も有効な方法を大統領1期目から探しあぐねてきた。対決姿勢を示せばトランプ氏側の報復にさらされかねず、逆にある程度譲歩すると同氏がそれにつけ込んで一層強硬になるケースもあるからだ。

ニューサム氏とトランプ氏は過去に何度も衝突している。トランプ氏はニューサム氏を「Newscum(ニュースカム)」、つまり名字のNewsomと人間のくずを意味するScumを組み合わせた造語で呼んで罵倒。ニューサム氏は昨年11月にトランプ氏が大統領選に勝利した後、カリフォルニアをトランプ氏の影響や政策から守ると宣言した。

それでもトランプ氏の2期目就任後しばらくは、ニューサム氏が歩み寄りの姿勢を見せていたが、トランプ氏が今回の騒動で州兵派遣を命じ、ロサンゼルスは暴徒に「侵略」されつつあると主張するに及んで、ニューサム氏はトランプ氏との「和解」路線の放棄を決断したようだ。

ニューサム氏はMSNBCで「私は常に米国の大統領に尊敬の念と責任感を持って接するやり方を望んできた。しかし大統領との協力は何も生まれず、トランプ氏自身のために働いただけになっている。私はもうドナルド・トランプのために仕事はしない」と語った。

これに対してトランプ氏は9日、記者団に、ニューサム氏は無能で逮捕されるべきだと発言。何の罪があるのかと問われると「一番の罪は州知事を続けていることだと思う。その理由はひどい仕事をしてきたからだ」と答えた。

<州のニーズか自身の野望か>

カリフォルニア州は9日、トランプ氏がロサンゼルスや周辺への州兵派遣を命じたのは憲法違反で権限を逸脱しているとして、命令撤回を求める訴訟を起こした。

一方で米政府関係者の1人は、追加の州兵が到着するまでロサンゼルスに約700人の海兵隊員を派遣すると述べた。

こうした中で、ニューサム氏は政治的な荒波を何とか乗り越えようとしている、と与野党双方のストラテジストは分析する。

トランプ氏は事あるごとに、カリフォルニアが民主党一色に染まった州だと強調して批判している。その中で州知事を務めるニューサム氏は、自身のイメージで穏健色を強めなければ、米国の次期大統領候補として無党派層へのアピールに苦戦を迫られてもおかしくない。

またニューサム氏がトランプ氏を怒らせれば、州内の有権者が実害を被る恐れもある。ニューサム氏は、先の山火事被害復興を支援するための連邦予算の拠出を待っている。トランプ氏は最近、同州の高校女子陸上大会にトランスジェンダーの選手が参加したことに腹を立て、州に対する連邦の教育支援金削減を示唆した。

その一方で、民主党支持者は自分たちのリーダーが、無法者で汚職まみれとみなしているトランプ氏と徹底的に戦ってくれるのを望んでいる。

同州で長年にわたって民主党のコンサルタントを務めるスティーブン・マビグリオ氏は「ニューサム氏は自身の野望と同時に、カリフォルニア州のために働かなければならず、しばしば両者は一致しない。ニューサム氏にとってそれはジレンマだ」と指摘した。

抗議デモに伴う混乱拡大により、トランプ氏は移民に対する強硬姿勢の妥当性を訴え、同氏が介入しなければカリフォルニア州政府は暴力を食い止めることができないと主張できる。

マビグリオ氏は「この点において、トランプ氏はニューサム氏を追い詰めたと思う」と述べ、今の状況は「法の支配がなく移民を抱える、極めてリベラルなカリフォルニア」というトランプ氏が貼ったレッテルにぴったりとはまってしまったと付け加えた。

共和党ストラテジストのジョン・フライシュマン氏は、車が炎上し、デモ参加者がメキシコ国旗を振り回す映像は、トランプ氏の立場を強める一方だと説明。「ドナルド・トランプは誰かにパトカーへ石を投げろと強制することはできない」と語り、ニューサム氏はトランプ氏が暴力を激化させていると非難したことで同氏の挑発にまんまと乗ってしまった、と分析した。

民主党の対話コンサルタント、クリス・ミーガー氏は「民主党の知事であれば、トランプ氏との協力度合いと自身の州のニーズの間でバランスを取るのは、常に微妙なかじ取りになる。ニューサム氏が自重を続け、粛々と業務を遂行し、状況はコントロールされていると証明できればそれだけ、同氏の将来が開けてくるだろう」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中通商協議、レアアース規制解消で一致 包括合意な

ビジネス

原油先物は下落、米中貿易協議の結果見極めへ

ワールド

ケネディ氏のCDC諮問委委員解任、ワクチンへの信頼

ビジネス

米中通商協議、輸出規制緩和へ枠組みで合意:識者はこ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 3
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるのか?...「断続的ファスティング」が進化させる「脳」と「意志」
  • 4
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「白鵬は、もう相撲に関わらないほうがいい」...モン…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    まさか警官が「記者を狙った?」...LAデモ取材の豪リ…
  • 10
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中