最新記事

中東

困窮エジプトの無謀な宇宙開発

2017年3月29日(水)10時30分
ルース・マイケルソン

宇宙開発はどうやらエジプトの得意分野ではない NASA/REUTERS

<通貨は下落し、物価は高騰し、暴動の恐れまであるエジプト。シシ大統領の甘過ぎる皮算用に国民は疑心暗鬼>

エジプトの首都カイロ郊外の建築現場で、青いガラス製のビルが日差しを浴びて輝いている。真新しい複合施設に入るのは新設されたエジプト宇宙局。60年代に頓挫した計画を復活したもので、技術革新を進めて人工衛星を建造し、広大な砂漠に眠っている資源を見つけ出すという。

民衆の支持を得た軍事クーデターで、軍トップのアブデル・ファタハ・アル・シシが権力を掌握してから4年近く。エジプト経済の失速はガソリンスタンド前の長い行列を生み、食料価格を高騰させ、絶望した市民を焼身自殺に駆り立てている。

大統領となったシシはカイロの東に行政・経済の中心都市を新設する計画を発表し、第2のスエズ運河を建設・完成させるなど、一連の巨大プロジェクトによってエジプト経済のテコ入れを図ろうとしている。宇宙計画はその最新版だ。

インフラへの投資は雇用を創出し、経済成長の起爆剤になり得る。だが多くの国民が貧困にあえぐなか、そんな余裕があるのかと疑問視する声も多い。

【参考記事】2017年は中東ニュースが減る「踊り場の年」に【展望・前編】

昨年8月、宇宙局新設の発表と時を同じくして、エジプトはIMFから120億ドルの支援融資を受けることに合意した。観光収入の激減などによる財政難を穴埋めし、景気を浮揚して通貨危機を乗り切ることが狙いだ。

IMFは融資条件として補助金削減と税制改革を求めた。エジプトに対する外国人投資家の信頼回復の兆しはあるが、今年1月のインフレ率はIMFの融資が始まった昨年11月以来最高水準に達し、果物や野菜など基本食料品の価格が急上昇した。

「IMFと合意した融資条件には政府債務の削減も含まれる。この時期に宇宙計画など資金の新たな使い道を模索するのは不適切かもしれない」と、ワシントンのシンクタンク、タハリール中東政策研究所のティモシー・カルダスは指摘する。

食料が買えない最貧困層が暴動に走る事態を避けるため、エジプト政府は是が非でもIMFの融資を必要としていると、専門家は指摘する。

昨夏の終わりには、通貨安による輸入品価格の高騰が引き金となり、補助金付きの乳児用ミルクや砂糖などの生活必需品、経口避妊薬をはじめとする医薬品が不足。シシは9月末、政府債務を軽減するための基金に、銀行取引の際の釣り銭を寄付するよう国民に呼び掛けた。それが反発を招き、貯金箱に潜んだシシが小銭をくすねる動画がソーシャルメディア上に出回った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中