最新記事

アメリカ政治

ウィキリークスはCIAを売ってトランプに付いた

2017年3月9日(木)19時20分
マックス・ブート

昨年7月、チリで開かれた国際セミナーにビデオ出演したアサンジ Rodrigo Garrido-REUTERS

<トランプがロシア関与疑惑で守勢に立たされたタイミングでの機密暴露は、偶然とは思えない。CIAを悪者にしてトランプを救ったのではないか>

ドナルド・トランプ米大統領は選挙戦中、「私はウィキリークスが大好きだ!」と公言していた。レイプの嫌疑をかけられて亡命中のジュリアン・アサンジが運営する内部告発サイトにトランプがおおっぴらに好感を示したのは訳があった。ウィキリークスは2016年の大統領選でトランプが有利になるよう、民主党全国委員会(DNC)のサーバーと民主党候補ヒラリー・クリントンの選対本部長だったジョン・ポデスタのアカウントから盗んだメールを大量に公開したからだ。

ウィキリークスは今週、再びCIAの機密を大量暴露したが、大統領としてのトランプはだんまりを決め込んでいる。今回暴露された情報は「宝の山」といわれ、既に一部の専門家はエドワード・スノーデン以上に情報機関にダメージを与える可能性があると警告している。だが、自分が指揮する情報機関の最重要機密が盗まれ、安全保障上も深刻な影響が懸念されるというのに、トランプからはコメントもツイートもない。大統領が事の重大性に気づいていないとしたら困った話だが、それ以上に厄介な可能性もある。ウィキリークスの今回の暴露が自分にとって好都合だから、静観を決め込んでいるのかもしれないのだ。

証拠もなく「オバマ盗聴」主張

思い出して欲しい。トランプは先週末、オバマが情報機関に自分の電話を盗聴するよう命じたと騒ぎだし、ツイートを連発した。以下はその一つだ。「神聖な選挙戦の最中に、私の電話を盗聴するとは、オバマ大統領も見下げたものだ。これはウォーターゲート事件と一緒だ。病的だ!」

ホワイトハウスはこの無責任な告発を裏付ける証拠を出していない。ジェームズ・コミーFBI長官も、ジェームズ・クラッパー前国家情報長官も、事実無根と断言している。それでもトランプはこの主張を取り下げる気はない。トランプ選挙対策本部とロシア政府が共謀して大統領選に介入した可能性があるという、はるかに重大な告発から国民の目をそらすことに役立つからだ。

【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治

トランプが盗聴疑惑を騒ぎ立てた3日後に、ウィキリークスがCIAのハッキング法と通信傍受に関する情報を大量にリークしたのは、ただの偶然だろうか。

その可能性も否定できない。だが、そうではないと考えられる理由もある。

まず第1に、ウィキリークスは大概、政治的なインパクトが最も大きい時期を見計らって告発を行うことだ。例えば昨年7月25日に開幕した民主党全国大会の直前には、民主党全国委員会(DNC)から盗んだ2万通近いメールを公開。DNCが予備選中に民主党左派のバーニー・サンダース候補を妨害しようとしていたことが明るみに出た。おかげでサンダース支持者の票を取り込もうというクリントン陣営の目論見は潰れた。DNCの委員長を務めていたデビー・ワッサーマンシュルツは大会閉幕時に辞任し、クリントンのイメージには深刻な傷がついた。

【参考記事】ヒラリー「肩入れ」メール流出、サンダース支持者はどう動く?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州新車販売、8月はBYDが前年比3倍増 2カ月連

ワールド

米、コミー元FBI長官の起訴要求か トランプ氏が敵

ワールド

アップル、EUにデジタル市場法規則の精査要求 サー

ワールド

焦点:米同盟国のパレスチナ国家承認、トランプ氏のイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 10
    9月23日に大量の隕石が地球に接近していた...NASAは…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中