最新記事

オーストラリア

トランプに電話を切られた豪首相の求心力弱まる

2017年2月8日(水)17時20分
エミリー・タムキン

トランプの被害者 電話を切られた上、指導力まで疑われている豪ターンブル首相 David Gray-REUTERS

オーストラリア国民は先週2月2日、マルコム・ターンブル首相がアメリカのドナルド・トランプ大統領との電話会談でオバマ前政権と約束した難民受け入れの話を持ち出し、「最悪だ」と怒られた上、途中で電話を切られたという屈辱的なニュースに目を覚ました。

【参考記事】希望のない最小の島国ナウルの全人口をオーストラリアに移住させる計画はなぜ頓挫したか

この電話会談は外交上のしこりとして残ったが、ある政治家は、たった5日で立ち直った。オーストラリア連邦議会上院議員のコリー・バーナーディは2月7日、ターンブル率いる自由党を離党し、自ら新党を立ち上げると発表した。トランプが掲げる反エスタブリッシュメントの旗印を、オーストラリアで自ら担ごうと思い立ったのだ。

オーストラリアの自由党は、名前はともあれ、実は保守的な党だ。しかしバーナーディにとっては穏健すぎるらしい。今回の発表でバーナーディは、オーストラリア保守党を立ち上げ、有権者に「信念に満ちた揺るぎない選択肢」を与えたいと述べた(バーナーディはこれまで、同性愛を獣欲になぞらえ、中絶を批判し、気候変動において人間が果たした役割に懐疑的な態度を示している)。

バーナーディはまた、2016年3月に支持者に送ったメールの中で、当時は大統領候補だったトランプのニューヨークにおける選挙戦を見て「何をすべきか」を学んだと語り、「専制的なポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)と闘う」と宣言している。

少数与党へ崖っぷち

保守党の議員は、バーナーディ1人。しかし、自由党議員があと1人でも入党してくれれば、ターンブルは少数与党に転落する。そうすればターンブルは、二大政党以外の議員にさらに依存せざるを得なくなる。バーナーディは今後、こうしたキャスティングボードを握る少数党派に属することになる。

【参考記事】難民収容所で問われるオーストラリアの人権感覚

野党労働党の党首ビル・ショーテンは今回の件について、党員集会の席上で次のように述べた。「労働党ならびにオーストラリア国民は、自由党の内輪で何が起こっていようが関心ない。コリー・バーナーディが自由党を離党しようがしまいがどうでもいい」

しかし伝えられるところによれば、ショーテンは「身内を統治できない政府は、オーストラリアを統治することもできない」と語ったという。議員が離反するほど自由党が混乱していることを、ショーテンは多少なりともチャンスと考えたのだろう。

【参考記事】オーストラリアの難民虐待に学びたい?デンマークから視察団

とはいえ、ターンブル政権にとって、すべてが悪い状況にあるわけではない。2月6日にはアメリカ上院の超党派グループが、「アメリカとオーストラリアの同盟関係に対する強い決意を再確認する」決議案を提出した。トランプとターンブルの険悪な電話会談を受けたものだ。テネシー州選出の共和党上院議員ラマー・アレクサンダーは議場でこう発言した。「アメリカ国民にとって、オーストラリア国民ほど望ましい友人はいない。われわれは友人以上の関係だ」

その意見には、オーストラリアにおけるトランプ崇拝者も同意することだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、エヌビディア「H20」のセキュリティーリスク

ビジネス

フジ・メディアHD、26年3月期の営業損益予想を一

ビジネス

午後3時のドルは148円後半へ反落、日銀無風で円安

ビジネス

ルノー、上期は112億ユーロの赤字 日産株で損失計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中