最新記事

韓国

「女たちが国を滅ぼした」――韓国のデモに紛れ込む「女性嫌悪(ミソジニー)」の危険度

2016年12月12日(月)15時20分
慎武宏(S-KOREA編集長)

Kim Kyung Hoon-REUTERS

<韓国で続く朴槿恵大統領の退陣を求める抗議行動の中で、女性蔑視の言動が散見される。背景には韓国に根強く残る「女性嫌悪(ミソジニー)」の感情がある>

「朴槿恵大統領が"女性"だから反対しているわけではありません!」

 これは去る11月19日に韓国ソウルで行われた朴槿恵大統領への退陣要求デモのときに、叫ばれたセリフだ。毎週のように繰り広げられている韓国のデモでは、朴大統領を批判する声と同時に、しばしば女性を卑下するような発言が出ているという。

 大統領の資格がないというニュアンスで「ミス朴」「朴嬢」などという言葉を使い、「女たちが国を滅ぼした」「だから女が要職につくのは駄目なんだ」といった発言が飛び出しているそうだ。

 デモに参加している一般市民だけではない。政治家も「(今後)100年は女性大統領の夢さえ見るな」「江南に住むアジュンマ(おばさん)」といった女性蔑視につながるような発言をしている。
朴槿恵大統領が就任当初から「韓国初の女性大統領」と強調してきただけに、それに対する反感ともとれるかもしれない。ただ、それよりも本質的なのは、韓国社会で蔓延していると指摘されている女性嫌悪(ミソジニー)だ。

【参考記事】ネットからついには現実世界にまで...韓国社会に蔓延する"女性嫌悪"の正体

 今回の退陣要求デモを韓国では"平和的デモ"と自賛しているが、そう感じない人もいるようだ。実際に、酔った50代男性が20代女性に痴漢をしたなどという事件が多数起きている。 週末デモに参加した女性たちを品評して「美しすぎるデモ美女を探せ」などと持ち上げる傾向も出ているという。

 そんな現状を『女性新聞』は、「SNSを通じてデモ参加女性たちの性的暴行被害の情報が溢れている状況だ。しかし、(中略)主催者側は何の対策も立てていない。女性たちが自分を守るためには、自警団を組織したり、デモをボイコットしたりする方法以外ない」と厳しく指摘している。

 国際的に見ても、韓国は男女平等が成熟していない国家の一つだろう。

 世界経済フォーラム(WEF)が発表している"男女平等"に関する「ジェンダーギャップ指数報告書」(2016年)を見ると、韓国は144カ国中116位。中国(99位)やインド(87位)と比べても、男女平等が実現されていないことがわかる。日本も111位と韓国に近い水準で、日韓共通の問題と言えるかもしれない。

 韓国社会でイシュー化されている女性嫌悪は、韓国人だけの問題ではないだろう。

 日本の寿司屋で起きた問題を "わさびテロ"などと皮肉っていた韓国だが、最近は韓国を訪れる外国人旅行者、とりわけ女性観光客のトラブルが増えているという。

 特にオーストラリアでは、「女性観光客にとって危ない国」ランキングのトップに、韓国の名が挙がるようになってしまったらしい。

【参考記事】外国人女性の被害続々..."女性観光客にとって危ない国"に落ちた韓国

 朴槿恵大統領を批判する際に、"女性"であることを指摘する理由はない。ただ不正を働いた大統領ということで糾弾すればいいのだろう。本当の意味で"平和的なデモ"になることを願うばかりだ。

【執筆者】
慎武宏(S-KOREA編集長)

1971年4月16日東京都台東区生まれの在日コリアン3世。和光大学人文学部文学科卒業。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。韓国スポーツに詳しく、韓流エンタメ関連ムックの企画、編集、プロデュースも多数。『サムスンだけが知っている』(幻冬舎)など、ビジネス書籍の翻訳も多数手がけている。共著『ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実』など。韓国のさまざまなジャンルを扱うニュースコラムサイト『S-KOREA』編集長も務めており、日本在住者ながらKFA(大韓サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)のメディア登録も許されている。

*この記事は「S-KOREA」からの転載です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

エジプト、スエズ運河通行料を割引へ フーシ派攻撃で

ビジネス

見通し実現していくか、内外情勢や市場動向を丁寧に点

ビジネス

日経平均3万8000円回復、米中の関税引き下げ好感

ビジネス

アマゾン、個人宅配でフェデックスと提携 一部大型貨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中