最新記事

米経済

企業経営に口出し、トランプ式経済政策は有効か

2016年12月9日(金)15時38分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

トランプが注文を取り消せと言った大統領専用機エアフォース・ワン(B747型機) Kevin Lamarque-REUTERS

 トランプ次期米大統領とビジネス界の駆け引きが早くも本格化している。米企業にメキシコへの工場移転を思いとどまらせるなど、トランプ氏はツィッター等を駆使して企業経営への口先介入を展開する。見境のない介入に識者から厳しい評価も聞かれるが、世論の反応は上々だ。

工場のメキシコ移転計画を阻止

「トランプ氏が違う種類の共和党員、少なくとも個別のケースでは、大企業に立ち向かう政治家であることがうかがえる」

 2016年11月29日、いつもはトランプ氏に厳しい米ニューヨーク・タイムズ紙が、珍しく称賛めいた評価を掲載した。トランプ氏の批判を受け、空調大手の米キヤリア社が、メキシコへの工場移転計画を変更したからだ。これに先立ち、自動車大手の米フォード社も、トランプ氏による名指しの批判に答えるように、メキシコへの生産移転計画を見直している。

 あからさまに個別企業の経営を批判する手法は、米国の大統領としては珍しい。ましてトランプ氏が属する共和党は、市場への政府の介入を嫌い、ビジネス界に親近感が強いとみられてきた。ツイッターによる「口撃」をも交えたトランプ流の手法に、ビジネス界は身構えている。

共産主義国の失敗を繰り返す?

 識者の評価は厳しい。ハーバード大学のグレッグ・マンキュー教授は、個別企業の経営に介入する手法では、国の経済をうまく運営できるわけがないと警告する。マンキュー教授は、「そうした失敗は、共産主義の国々で見てきたはず」という。

 企業の工場移転に物申したからといって、「トランプ氏を労働者の味方と勘違いするべきではない」という意見も目立つ。

 大統領選挙の予備選挙で大企業批判を繰り広げた民主党のバーニー・サンダース上院議員は、むしろ悪い先例を作ったと手厳しい。キヤリア社は見返りに州政府から優遇税制を得ており、これで企業は「工場の海外移転をほのめかせば、優遇税制や補助金などを得られると考えるようになった」というわけだ。「海外移転を考えていなかった企業も、これを機会に移転計画を検討し始めたのではないか」という。

 ニューヨーク市立大学教授のポール・クルーグマン教授は、個別の交渉で救われる雇用者の少なさを指摘する。それよりも、オバマケアの廃止等、労働者に手厳しい政策を展開しようとするトランプ氏の本質を見誤ってはいけない、というのがクルーグマン教授の立場である。

組合長も口撃の対象に

 大統領の行動が持つ象徴的な意味合いは軽視できない。

 クルーグマン教授が指摘するように、個別の介入による直接的な影響は小さい。米国では毎月10~20万人規模で雇用が増加している。トランプ氏が自慢する通り、キヤリア社の計画変更で1,100人以上の雇用が救われたとしても、ほとんど誤差の範囲内である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏会計検査院、歳出削減促す 増税頼み限界

ビジネス

日立労組、26年春闘のベア要求1万8000円 一時

ビジネス

日銀、3月か4月会合で利上げの可能性「相応にある」

ワールド

アングル:米公民権運動導いたJ・ジャクソン師死去、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 5
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中