最新記事

米経済

企業経営に口出し、トランプ式経済政策は有効か

2016年12月9日(金)15時38分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 しかし、個別の介入がもたらす直接的な影響は小さくても、大統領の意向を嗅ぎ付け、それ以外の企業の行動が変わっていく可能性がある。ロナルド・レーガン元大統領は、就任早々にストライキを行った航空管制官の組合員を大量に解雇した。これをきっかけに、米国の労働組合運動は、停滞の度合いを強めていったといわれる。
 
 問題は、トランプ氏の真意がどこにあるのか、判断がつきにくいことだ。トランプ氏は、キヤリア社が属する労働組合の組合長に対しても、ツイッターで厳しい口撃を展開している。計画変更によって救われた雇用者の数について、「トランプ氏は嘘をついている」と組合長が批判したからだ。トランプ氏のツイッターに賛同するように、組合長には脅迫めいた電話がかかってくるようになったというから穏やかではない。

ようこそトランプ劇場へ

 確かなのは、世論がトランプ氏の異例の行動を支持していることだ(下図)。世論調査によれば、キヤリア社の工場移転計画変更によって、トランプ氏の好感度が高まったという回答が6割に達している。政府による経済への介入を嫌うはずの共和党の支持者でも、何と9割近くがトランプ氏の好感度が高まったと答えている。一般的に大統領が個別企業と交渉することについても、共和党支持者の7割が「問題ない」と答えている。

yasuichart161209.jpg

 トランプ氏のビジネス界への口先介入は、工場移転問題にとどまらない。トランプ氏は、米航空製造大手のボーイング社に対し、コスト高を理由に大統領専用機(エアフォースワン)の契約を取り消すとツイッターでつぶやいた。同社の関係者によるトランプ氏への否定的な発言が引き金になったとも噂されているが、ツイッターの直後に同社の株価は一時的に下落した。かと思えば、米タイム誌とのインタビューでは、「薬価を引き下げる。薬価(の高さ)は気に入らない」と発言、製薬業界の株価を急落させた。

 ビジネス界には、トランプ劇場に付き合う以外に選択肢はない。いち早く孫社長がトランプ氏との会談を実現させたソフトバンクでは、グループ傘下のスプリント社の株価が上昇している。トランプ氏のツイッターを分析し、自動的に株価の売買を行うアルゴリズム取引の開発が進められているともいわれている。

 大統領就任式は2017年の1月20日。正式就任の1カ月以上前から、ビジネス界は「トランプ大統領」に振り回されている。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中