最新記事

米中関係

人民元、関税、南シナ海──トランプの対中批判はどこまで正確か

2016年12月6日(火)16時46分
コナー・ギャフィー

中国は断りもなく為替操作をしている、とトランプは言うが? Carlos Barria-REUTERS

<台湾の蔡英文総統とトランプが電話会談を行ったことに中国が抗議すると、トランプは「お前のほうこそ断りなく迷惑なことをやっているじゃないか」と反論。トランプは一手に米中関係を破壊しようとしているかのようだ>

 ドナルド・トランプ次期米大統領は、一手に米中関係を破壊しようと挑んでいるのかのようだ。

 7週間後に大統領就任を控えたトランプは、早くも中国政府を激怒させている。12月2日に台湾の蔡英文総統と電話会談を行ったのだ。アメリカ大統領もしくは次期大統領と台湾総統との電話会談は1979年以来初と見られる。中国は、台湾を領土の一部だとみなしており、独立は認めていない。中国外務省は12月3日、この電話会談についてアメリカ側に厳重な抗議を申し入れたと発表した。

中国の抗議に更なる攻撃

 トランプは姿勢を軟化させる気配を微塵も見せず、それどころか12月4日、中国に対する批判を開始した。

 一連のツイートでトランプは次のように述べている。「(アメリカ製品の競争が困難になる)人民元切り下げを行うとき、中国は、事前に断りを入れただろうか? アメリカが中国に輸出する製品に重税を課してもいいかと聞いただろうか(アメリカは中国製品に課税していない)。南シナ海の真ん中に巨大な軍事複合施設を建設するときは断ったのか。そんなことはない」

【参考記事】米の対台湾武器売却に対する中国の猛抗議と強気
【参考記事】南シナ海、米中心理戦を読み解く――焦っているのはどちらか?

 トランプの主張は本当なのか、検証する。

■人民元の切り下げ

 中国は2015年8月に人民元の切り下げを行い、アメリカ政府を激怒させた。中国人民銀行(中央銀行)は、この切り下げは人民元の相場が市場で決まるようにするための措置で、切り下げはIMF(国際通貨基金)からも了解を得ていると主張した。一方のアメリカは、人民元を人為的に低く抑えることで、中国製品の輸出競争力が増し、それがアメリカや諸外国の競争を妨げていると訴えた。

 トランプの主張は、中国でビジネスをするアメリカ企業の意見を反映したもののようだ。在中米国商工会議所が1月に発表した年次調査によると、アメリカ企業は、中国におけるビジネス環境がますます困難になりつつあると考えており、企業の10分の1が移転を計画しているか、すでに事業の一部を中国外に移しているという。同調査では、一貫しない規制と不明瞭な法律――および一般的な排外思想――がおも理由だと述べられているが、人民元の切り下げもいくらか役割を果たしたようだ。

■中国によるアメリカ製品への課税

 トランプは以前にも同様の主張を展開していた。選挙運動期間中の3月にニューヨークタイムズ紙に対し、共和党候補だったトランプはこう語っている。「アメリカが中国でビジネスを行うのは非常に難しいが、中国がアメリカでビジネスを行うのは非常に簡単だ。しかも、アメリカが中国にものを売るときは莫大な税金を支払っているのに、中国がわれわれ相手に商売するときは無税だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中