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大統領選「デマニュース」の出元はロシア?

2016年12月1日(木)10時30分
ダニエル・ポリティ

David Ryder-REUTERS

<大統領選でソーシャルメディアを通じてデマニュースがまき散らされ、その背後に「ロシアのプロパガンダ工作」があったという指摘が出ている>(写真:シアトルで行われた反トランプデモ)

 米大統領選がドナルド・トランプの勝利という衝撃の結果に終わって3週間。波紋はまだ収まっていない。

 11月末には、第3党の「緑の党」の候補だったジル・スタインらの申し立てにより、ウィスコンシン州で票の再集計を行うことが決定。この動きは、ミシガン州やペンシルベニア州などにも広がる可能性がある(ただし、トランプ勝利という結果は動かないという見方が多い)。

 一方、選挙結果をめぐっては、ネット上のデマニュースが有権者の判断に影響を及ぼしたという指摘もなされてきた。しかも、ワシントン・ポスト紙の記事によると、その背後には「ロシアの巧妙なプロパガンダ工作」の影があるという。

【参考記事】偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

 記事によれば、ロシアは選挙前の数カ月、陰謀論系ウェブサイトやソーシャルメディア、ボットネット(不正に遠隔操作できるコンピューター群)を通じて、デマニュースを拡散させてきた。ヒラリー・クリントンの健康不安説、反トランプデモの参加者への報酬支払い疑惑、開票不正疑惑(選挙前にトランプはしきりに不正が行われる可能性を主張していた)などのデマがまき散らされたとされる。

 同紙は、ロシアによるオンライン上のプロパガンダ工作について調べている非営利団体「プロップオアノット」の報告書の内容を紹介している。

【参考記事】ネットで飛び交う偽ニュースがトランプを大統領にしたのか?

 それによると、「選挙期間中にロシアのプロパガンダを流し続けたウェブサイトは200以上。閲覧したアメリカ人は合計で少なくとも1500万人に上る」。さらに「フェイスブック上で(その種のニュースが)読まれた回数は推計2億1300万回に上る」という(ただし、同団体がリストアップしたサイトの中には、トランプ支持の右派系サイトだけでなく、左派系サイトも含まれている)。

 ロシアの対米プロパガンダは昔からあった。「東西冷戦時代に(ロシアの前身である)ソ連は常にそれを画策していた」と、外交政策研究所のクリント・ワッツ上級研究員は言う。「ただし、それを実行するのは今よりずっと難しかった」

 しかし、現在はソーシャルメディアがある。生身の人間を介してプロパガンダ情報を広める手間をかけるまでもない。デマ情報を信じやすい人たちに向けて直接、嘘のニュースを届けられる時代になったのだ。

© 2016, Slate

[2016年12月 6日号掲載]

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