最新記事

テロ組織

モスル陥落で欧州にテロが増える?

2016年11月23日(水)09時45分
ラファエロ・パンツッチ(英王立統合軍事研究所上級研究員)

Zohra Bensemra-REUTERS

<イラクのモスルが陥落した後、ISISの戦闘員が世界各国に分散するおそれが指摘されている。不安視されるのは、対テロ態勢がまだ万全ではない東南アジアや中央アジアへの影響だ>(写真:戦闘から逃れるモスル東部の市民)

 イラクのモスルが陥落したら、欧米でテロ攻撃が再燃するという予測がある。特に恐れているのが欧州諸国。敗走するテロ組織ISIS(自称イスラム国)の兵士が難民に紛れて流入するのではないか、というのだ。

 だが、そうはならないかもしれない。たとえ拠点を追われても、ISISの兵士にはシリアの戦場に移ったり、母国に帰って戦いを続けるなどの選択肢があるからだ。

 確かに昨年のパリと今年のブリュッセルで起きたテロは、世界を震え上がらせた。その後の未遂事件を見ても、攻撃を続けようという意図は感じられる。だが今のところ、大掛かりな計画には失敗しているようだ。それも欧州だけの話ではない。

 理由はいくつか考えられる。第1に、ISISに各国から志願兵が押し寄せたのは、戦場で勝っていたからだ。しかし勝利から遠ざかるにつれて、その数は減っている。第2に、各国の安保・情報担当局の連携が向上したこと。この2つの理由から、ISIS兵士の流入はそれほど多くはならないだろう。

【参考記事】ISISは壊滅する

 テロの可能性を軽くみているわけではない。あまり注目されていないが、シリアやイラクへの渡航を禁じられた人々をどう扱うかは大きな問題だ。治安当局はテロの本質を理解するようになり、兵士をリクルートするネットワークについての知識も深めている。こうして、多くの志願兵の渡航を阻止してきた。

 しかし、難しいのは阻止した後だ。彼らは勇んで戦場を目指したのに、目的を果たせずに終わる。鬱積した不満は暴力につながりかねない。カナダやオーストラリア、フランスなどでは、こうした一連の動きが背景にあるとみられる事件が起きている。

 さらに不安なのは、対テロ態勢がまだ万全でない東南アジアや中央アジア、中東、北アフリカにいるテロリストへの影響だ。こうした地域出身のISISメンバーは、母国へ帰ることも他地域に比べて簡単なので、中東でほかに戦場を探すより母国で活動を続ける可能性がある。

 モスル敗退はISISにとって、運命の分かれ目になるだろう。だが、その脅威がいきなり消えるわけではない。むしろ分散し、進化し、しばらくは世界を脅かし続ける。

[2016年11月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウラン濃縮20年停止を提案 イランとの協議で=

ワールド

仏大統領、ベネズエラ野党指導者マチャド氏と会談 民

ビジネス

消費堅調なら経済成長も維持、油価高止まりに注視も=

ワールド

イスラエルとの会談「無意味」、ヒズボラ指導者 レバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中