最新記事

台湾

苦境にある台湾メーカーの未来を「台湾エクセレンス」に見た

2016年10月17日(月)19時19分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

OEMからオリジナルブランドへ

 数々の製品を眺めているだけでも楽しい展示会だったが、加えて全体を通してみると台湾経済の変革が印象的だった。第一にOEMで成長してきた企業が独自ブランドへの転換を図っている点だ。会場の台湾貿易センター・スタッフによると、B2BからB2Cへの転換が台湾全体の課題になっているという。OEMが盛んな台湾ではB2Bが中心となってきたが、中国への製造拠点移転が進むなかで産業空洞化が問題となってきた。高い付加価値を持つオリジナルブランドで製造業復興を図る狙いだ。台湾エクセレンスはその突破口の一つとして位置づけられている。従来は台湾での展示が中心だったが、ここ数年は日本、米国、インドネシア、ベトナム、インドなど海外での展示会が増えている。

 第二に中国以外の市場への傾倒だ。2008年から2016年にかけての馬英九政権で台湾は中国と急接近した。積極的に中国との友好姿勢を打ち出すことで、中国市場成長の恩恵にあずかろうという狙いだ。しかしリーマンショックの影響もあり、経済成長率は以前の4~6%から1~2%台にまで低下している。中国との接近によるバラ色の経済成長という馬英九前総統の公約は結局実現することはなかった。中国政府自身も経済的"恩恵"が台湾の一般市民にまで届いていないことを問題視し、台湾青年の中国本土就業を促進するなど新たな経済的取り込み策を検討していると報じられている。

 また中国への依存は政治リスクにもつながる。実際、今春の蔡英文政権発足以来、政府間・企業間・研究者間の交流が制限されるなど、政治的変化がダイレクトに経済関係に悪影響を及ぼしている。こうしたなかで、中国以外の市場を開拓する重要性が再認識されている。

【参考記事】台湾ではもう「反中か親中か」は意味がない

 この変革が成功するかどうかはまだ未知数だ。OEMからオリジナルブランドへという流れにせよ、中国以外の市場開拓という方針にせよ、決して目新しいものではない。例えば蔡英文政権の東南アジア重視政策は「新南向政策」と名付けられている。陳水扁総統時代の"旧"南向政策の焼き直しというわけだ。新味がないと言ってしまえばそれまでだが、一発逆転ホームランを約束した馬英九前政権と違って、蔡英文政権は空手形を切らずに着実な政策を選択したとも言える。困難な目標だが、台湾エクセレンス in 東京で展示された魅力的な製品の数々は台湾の未来を変えることができるのだろうか。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

自民党、総裁選前倒しの是非について議論開始

ワールド

中国、EU乳製品への補助金調査を延長 貿易巡る緊張

ワールド

インド失業率、7月は5.2%に低下 祝祭時期控え農

ワールド

トランプ氏、ウクライナ「安全の保証」関与表明 露ウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    米ロ首脳会談の失敗は必然だった...トランプはどこで…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中