最新記事

国民投票

難民を拒絶するハンガリー政府の言い分

2016年10月5日(水)18時54分
ゾルタン・コバクス(ハンガリー政府報道官)

Bernadett Szabo-REUTERS

<難民危機やテロで一部の国民が排外主義を強めているヨーロッパ。なかでもかなり強硬で国境沿いにフェンスを作って難民の侵入を阻んだハンガリーで先週末、難民受け入れの是非を問う国民投票が行われた。微妙な選挙結果に対し「圧倒的勝利」を主張するハンガリー政府の言い分を聞いた> (写真は、妻と投票するオルバン首相)

 ハンガリーで2日、EU(欧州連合)加盟国が分担して難民を受け入れることの是非を問う国民投票が行われた。結果は反対が98%と圧倒的。ただし投票率は50%を大きく下回り、国民投票は不成立となった。投票率が低かったのは、難民を排除する政府の姿勢に国民が「ノー」と言っている証拠、という声もあるのに対し、政府は圧倒的勝利だと主張する。以下は、本誌の取材に対するハンガリー政府からの回答だ。

【参考記事】難民を締め出したハンガリーに「EUから出て行け」

                  *

 今回の国民投票ほど多くの有権者が一つにまとまったのは、ハンガリーでは今までなかったことだ。330万人の有権者が反対票を投じたのは、民主化した1989年以降に行われたどの国民投票や総選挙よりも強い民意の表れだ。

 ビクトル・オルバン首相は開票が進む2日夜、この国民投票の結果は「ブリュッセル(EU本部)で戦うのにも十分な強い武器になる」と言った。

誰と住みたいかは国民が決める

 事実、EUへのメッセージは明快だ。ハンガリー国民の98%が難民の受け入れ分担を拒絶した。有権者が820万人しかいない国で、330万人が反対したのだ。「EUがわが国の国会による承認もなく、外国人の定住者受け入れをハンガリーに義務付けることを望むか」という問いに、国民から「ノー」の答えが鳴り響いた。

【参考記事】ヘイトスピーチを見逃すから極右が伸長する

 オルバン政権が国民投票を実施したのは、ハンガリー政府が移民政策を決定する権利を守り、EUが進める難民受け入れ分担に待ったをかけるためだ。欧州委員会はEU域内に不法に際限なく流入する大量の移民や難民を定住させるため、加盟国の同意なしに分担を義務付ける割当制度を提案している。だが、誰と一緒に住みたいかを決めるのは、その国の国民だ。ハンガリーも他のどの加盟国も、ブリュッセルに指図されるべきではない。

 有効投票の98%という圧倒的多数で330万人の有権者が「ノー」を突き付けた今、ブリュッセルはようやく人々の声に耳を傾けるだろうか。

 ハンガリー政府に批判的な立場の人々は、投票率の低さをやり玉に挙げて、この国民投票に法的拘束力はないとか、ハンガリーはむしろ難民反対に反対だという。だがハンガリーの国民投票はいつも投票率が低く、2日の投票率が過半数を割る44%だったのも驚くにはあたらない。この国民投票の政治的な重みを見逃しているのは彼らのほうだ。

【参考記事】一般人に大切な決断を託す国民投票はこんなに危険

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続伸、半導体関連小じっかり 積極売買

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ワールド

アサド政権崩壊1年、行方不明者の調査進まず 家族の

ビジネス

豪中銀が金利据え置き、利上げリスクに言及 緩和サイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中