最新記事

国民投票

難民を拒絶するハンガリー政府の言い分

2016年10月5日(水)18時54分
ゾルタン・コバクス(ハンガリー政府報道官)


 
 第一に、ハンガリーが民主化されて以来、一つの問題に対してこれほど圧倒的多数の有権者が一つの意見でまとまったのは今回が初めてだ。さらに、EUの決定に反対票を投じた有権者数は、2003年にEU加盟の是非を問うた国民投票での賛成票より15万人多く、投票率も2014年に実施されたEU議会選挙より15%高かった。2014年のハンガリー議会選挙で現在の政府与党に投票した有権者数と比べても100万人多い計算だ。

 こうした有権者の意思表示を無視することはできない。国会や政府には投票結果を真摯に受けとめ行動する政治的な義務があると考える。

 オルバン政権がEUの官僚を批判するのは、彼らはEUが直面している危機に対して適切に対応せず、重要な問題があっても加盟国の国民の同意を求めず、加盟国にしか属さない様々な権限を奪い、政治やイデオロギーがEU機関を支配することを許しているからだ。

シェンゲン協定を悪用する不法移民

 不法移民への対応を例にとってみよう。EUの専門機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力機関)の報告書によると、EU域内に流入する不法移民の数は増え続けている。ハンガリーでは2015年に数万人の不法移民が侵入し、EU域内に入り込んだ。その多くがパスポートなど身分を証明できる書類を持っていなかった。彼らは難民申請者だと言われるが、その大多数は当局への協力を拒み、EU域内で人が自由に移動できる「シュンゲン協定」を悪用している。

 難民危機の大きな原因は、EUが国境管理の厳格化に消極的なことだ。ハンガリーがEUの外郭にあたる国境にフェンスを作ったのは、独力でも国境を守り、不法移民にルールを守らせるためだ。

 こうした対策が厳し過ぎると非難する向きもあるが、難民の流入に困っている他のEU加盟国のいくつかは、最後はハンガリーをまねて国境に防護柵を作り入国を制限しはじめた。

 あれから一年以上が経過したが、不法移民を管理する効果的な方策は未だ編み出されていない。我われは穴だらけの国境から入ってくる大量移民とテロとの間に直接の関連があると考えている。犯罪発生率も増加している。地元の住民も、移民受け入れが本当に有効な政策なのか疑問を持ち始めている。

 それでも欧州委員会は難民割り当てを押し付けようとする。受け入れ人数には上限すらない。一方的に加盟国に負担を押しつける一方、歯止めなき流入を止める手立ては何も打とうとしない。

 ヨーロッパ中の選挙で見てきたように、住民の声を無視する代償は大きい。ハンガリー人は難民割り当てに反対した。他の加盟国も反対に動くだろう。ハンガリーの国民投票は、EUはまず民主主義と互助というルーツに戻るべき、という警告だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む 市場予想下回る

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中