最新記事

中国政治

習近平と李克強の権力闘争はあるのか?Part 2――共青団との闘いの巻

2016年10月20日(木)18時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 抗日戦争に関する軍事パレードなので、中共中央軍事委員会の主席や副主席が指揮すべきで、本来なら軍事委員会副主席が司会をしても良かった。しかし、「軍」が突出し、「国家の軍隊」ではなく「党の軍隊」しか認めていない現状に対する国内の反発を恐れて、政府側の「国務院総理(首相)」に司会を依頼することがチャイナ・セブンの会議(中共中央政治局常務委員会会議)および中央軍事委員会会議で決定したとのことである。

 これは李克強を重視した決定であって、「首相が司会役に成り下がったのは、習近平への権力集中を象徴する」などということとは真逆だ。

 このように、中国という国の骨幹を知らない人たちが、江沢民が一部のメディアを買収して扇動している「権力闘争説」に騙されて、中国の現象を全て、その「色眼鏡」を通して見ていることの恐ろしさを痛感した。

 これでは中国の正確な分析はできない。

 なお、共青団の第一書記が中国共産党中央委員会総書記になるという現象は、トウ小平が「隔代指導者指名」をしてから、結果的に一代(一政権)ごとに繰り返されている。胡耀邦(1982年~87年)、胡錦濤(2002年~2012年)ともに、共青団の第一書記だった。習近平の次の政権は、やはり共青団第一書記だったという経験を持つ胡春華(現在、中共中央政治局委員、広東省書記)になるのではないかと予測されている。それを防ぐために李克強の力を削ごうとしているという憶測があるが、李克強は習近平が対抗しなければならないほどの力を持っているだろうか? 持っていないと筆者は思う。したがって、経済問題の論争以外、対抗する必要がない。習近平の方が圧倒的力を持っているし、国務院よりもはるかに「党が上」だからだ。経済問題も、ここのところ、互いに歩み寄りを見せており、まず李克強が盛んに一帯一路を強調し始めた。「党の言うことは聞くしかない」からだろう。

 東北のゾンビ企業が閉鎖されたのは、「習近平が李克強をやっつけた」のではなく、「李克強が国営企業を痩身化させなければならないと主張してきたことが実現された」のである。この基本が分かってないと、中国経済の行方さえ見えなくなる。そのようなことをしていたのでは日本の国益にかなうとは思えない。

 習近平と李克強に共通しているのは、「自分たちの代で中国共産党の一党支配体制を終わらせてはならない」という、逼迫した思いだ。

 習近平はラスト・エンペラーにはなりたくないと思っている。

 そのためには、李克強の力が、一定程度は必要なのである。

 一党支配体制の崩壊要素は、目の前に横たわっているのだから。

 2022年に来るであろう次期政権に関しては、またいつか改めて分析したいと思う。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ

ワールド

トランプ氏「ロシアとウクライナに素晴らしい日に」、

ビジネス

関税は生産性を低下させインフレを助長=クックFRB

ビジネス

トランプ政策になお不確実性、影響見極めに時間必要=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中