最新記事

法からのぞく日本社会

芸能人の「一日警察署長」も、容疑者を逮捕できます

2016年9月27日(火)12時15分
長嶺超輝(ライター)

<日本各地から「一日警察署長」のニュースが多く報じられる季節になったが、じつは「一日警察署長」を務める芸能人やスポーツ選手でも、容疑者の逮捕ができる。どういう場合に逮捕ができるのか、あなたも知っておいたほうがいい>

 今年は、今月21日から30日にかけて、秋の交通安全運動が実施されている。年末にかけて、芸能人やスポーツ選手が「一日警察署長」に任命されるニュースが多く報じられる季節となった。

 交通安全や防犯を一般大衆へ呼びかける啓発運動は、ともすると地味になりがちである。そこで、「署長」に扮した有名人が本物そっくりの立派な制服を着用し、パレードに参加したり、マスメディアの前でコメントを寄せたりすることで、キャンペーンに彩りを添えるのである。

 ズバリ『一日警察署長』と大きく書かれたタスキを斜めがけしているのがトレードマークだ。一種の広告塔のようなものといえるかもしれないが、そんな一日警察署長も、容疑者を見つけたとき、条件付きで逮捕できることはご存知だろうか。

 法律上、逮捕は3種類に分類される。「通常逮捕」「緊急逮捕」、そして「現行犯逮捕」である。

 通常逮捕とは、裁判官が発行した逮捕状を取ってから、容疑者の逮捕を行う刑事手続きである。警察官以外でも、検察官、刑務官、海上保安官、麻薬取締官、労働基準監督官などに通常逮捕の権限が与えられている。

 逮捕は、人の身柄を確保し、その自由な行動を大きく制約する手続きとなる。そのため、警察官から逮捕状の請求を受けた裁判官が、基本的人権の不当な侵害がないかを客観的にチェックしている。つまり、逮捕状とは、三権分立の一環で、司法から警察行政に対して発布する許可状である(そのチェック体制に疑問を持ち、過去に「裁判官は逮捕状の自動販売機だ」と批判した人がいたけれども、それはそれとして)。

 逮捕状は、警視庁や道府県警察本部、警察署に勤務する「警部以上の階級にある警察官」が請求できることになっている(東京都の場合は、警視庁司法警察員等の指定に関する規則 第3条3号4号、他の道府県でも同様)。

 じつは、一日警察署長に「警部」や「警視」などの階級が特別に与えられているケースもある。とはいえ、有名人を警察署に迎えるにあたって、おもてなし的に付与された名目上の階級だ。実質を伴うものではないため、一日警察署長が裁判所に逮捕状を請求することはできないし、他の警察官に逮捕を指示できるわけでもない。

一日警察署長もあなたも、現行犯逮捕ができる

 一方、緊急逮捕は、一定以上の重大犯罪を犯したと疑うに足りる十分な理由がある容疑者がいて、裁判所から逮捕状が出るのを待っていられず、急を要する場合には、ひとまず逮捕して、後で逮捕状を請求する手続きである。

 事後的とはいえ、逮捕状を請求しなければならない。やはり一日警察署長の出る幕はないといえる。

 もし、一日警察署長が容疑者を逮捕できるとすれば、逮捕状がいらない「現行犯逮捕」ということになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ支援船、イスラエル軍が残る1隻も拿捕

ビジネス

世界食糧価格指数、9月は下落 砂糖や乳製品が下落

ワールド

ドローン目撃で一時閉鎖、独ミュンヘン空港 州首相「

ビジネス

中銀、予期せぬ事態に備える必要=NY連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 8
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 9
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中