最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領下のフィリピン麻薬戦争、死者の山に口閉ざす人々

2016年9月7日(水)10時27分

人権団体はドゥテルテ市長時代のダバオにおいて数百件もの不審な殺害例を記録しており、ダバオ氏では暗殺部隊が何の刑事責任も負わずに活動していたと述べている。一部で「パニッシャー(仕置き人)」と呼ばれるドゥテルテ大統領は、超法規的な殺害を命じていることを否定するが、そうした行為を批判していないのは事実だ。

現在フィリピン国内では、麻薬密売人の容疑者リストが地域の有力者から警察に提出されており、コミュニティのなかに恐怖感・不信感が増している。

政治家は、タイプを問わず皆沈黙しており、デリマ氏が主導する上院による調査も、法案を提出できるだけで、現場で殺人を止めることはできない。

<監察官は手一杯>

IASを指揮するLeo Angelo Leuterio主任警視は、警察が関与した発砲事件の調査はすべてIASが担当していると話す。だが、監察官は全国でわずか170人程度しかおらず、IASが対処できるのは、日々報告される約30案件のうち、30%に過ぎない。「IASはボロボロの状態だ」とLeuterio氏は言う。

IASのトップは独立性を確保するために文官であることとされているが、Leuterio氏は、ドゥテルテ大統領の地元であるダバオで13年のキャリアを積んできた警察官だ。同氏は、自分は公明正大であり、これまでに不正行為を理由に何百人もの警察官を解雇してきた実績があるという。

一方CHR側では、7月1日以降に発生した2000件以上の殺害事件のうち、調査しているのはわずか259件である。14人で構成される法医学チームは手一杯であり、狭苦しいオフィスで、超法規的な殺害の容疑を調べている調査官は、わずか12件の調査書類しか処理していない。

CHRは、最大の障害は、証人を見つけることが難しい点だという。

警察は29日、マニラの人口稠密な極貧地区であるトンド地区で、麻薬密売の容疑者に対して発砲したと記者団に発表した。

ロイター記者が、1部屋しかない容疑者の家を調べたところ、マットレスに血痕が散っていた。記者は近隣の住民に「何発撃たれたのか」と質問した。その男性は「悪いね、君。私は銃声なんて一発も聞いていないよ」と答えて歩き去った。

(John Chalmers記者、Andrew R.C. Marshall記者、翻訳:エァクレーレン)



[マニラ 5日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生

ワールド

タイ財務相、米に最新の貿易交渉案提出 多くの品目で

ビジネス

再送国内ファンドのJAC、オムロンとタダノに出資 

ワールド

米国の自動車船入港料、韓国が免除要請
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中