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20世紀前半、帝都東京は中国人の憧れの街だった

2016年9月20日(火)15時42分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

Torsakarin-iStock.

<日本に留学したり、亡命したり、情報収集のために来日したり......。中国の20世紀前半の有名人はほとんど日本へやって来ていた。歴史は単なるカレンダーではない。東京で生き生きと暮らした中国留学生たちの息遣いや、日本を追慕しつづけた彼らの「こころ」はどんなものだったのだろうか>

 日本生まれの私は子供の頃、東京にある中国人学校で学んだ。よく覚えているのは歴史の授業が苦手だったことだ。とにかく中国史は長くて覚えることが多く、近代史にいたっては複雑すぎて頭がパニックになり、苦手意識をより一層募らせた。

 それがふとしたきっかけで、イメージが変わった。

「中国共産党はハンサムな青年と美人ばかりだった」と、父が言ったときだ。

 中国革命の激動期に広東省から日本へ渡り、そのまま日本に住み着いた父は、ときどき予想外のことを口にする。

 まさか、と私は思った。

 毛沢東に代表される中国共産党は、農民運動の末に中華人民共和国を打ち立てた泥臭いいイメージしかない。だが、戦前、中国共産党員だった父が言うのだから、あながち嘘ではないだろう。それで調べてみた。

 わかったことは、1921年(大正10年)に第1回全国代表大会を開いて、中国共産党を作ったメンバーは13人いたが、全員が大学卒か在学中の男性で、しかも日本への留学生が4人もいたという事実だった。詳しい状況は拙著『中国共産党を作った13人』(新潮新書)に譲るとして、彼らの平均年齢は27.8歳。これではまるで大学のサークル活動のようだ。とにかく、若さと情熱、希望にあふれた人の顔つきは引き締まって見えるものだから、「ハンサムな青年」という表現もあながち間違ってはいないのだろうと、腑に落ちた。こんなことは歴史教科書には書いてないじゃないか。

 彼ら4人だけではない。同時代に日本へ留学したり、亡命したり、情報収集のために来日した中国人がいるわいるわ、中国の20世紀前半の有名人はほとんど日本へやってきているのである。

【参考記事】天安門事件から27年、品性なき国民性は変わらない

 明治維新の成功後、日清・日露戦争に勝利してアジアの星となった日本は、中国人の憧れの的だった。多いときには1万人近くの留学生がいた。日本の生活に馴染み、世界の先端知識と最新情報を収集し、帰国後は日本で得た成果をもとに自分の道を切り開いた中国人が多かったのである。いわば当時の日本は「智の宝庫」であり、すこぶる魅力的な国だったわけだ。

 歴史は単なるカレンダーではない。年表や人名を覚えるだけでは受験勉強以外に役立たない。そこに生きた人々の「こころ」を知ることこそ、本当の意味で歴史を知ることではないのだろうか。

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