最新記事

法からのぞく日本社会

天皇陛下の基本的人権――日本国憲法から読み解く

2016年8月18日(木)11時29分
長嶺超輝(ライター)

Imperial Household Agency of Japan/Handout via Reuters

<天皇陛下の「お言葉」公表をきっかけに、生前退位を可能にする法改正をすべきかどうかが議論されている。ここで、改めて憲法を読み込んで整理しておきたい。そもそも、天皇陛下は基本的人権をお持ちなのか。基本的人権に制約がかけられているとして、どの条文によるどのような制約なのか。果たして生前退位に憲法改正は必要なのか>

 去る8月8日、天皇陛下が「お気持ち」を語るビデオメッセージが公表された。これをきっかけに、天皇という地位をご自身の意思で譲ることを可能にする法改正をすべきかどうか、すべきとしてどのような形を採るべきかが議論されている。

【参考記事】天皇陛下の「お言葉」全文

 神話の時代も含めて2600年以上、125代にわたって連綿と継承されてきた皇位だが、天皇が生前に皇位を譲って退いた例は、歴史をひもとけば過去に58例あるとされ、全体の約46.4%にも及ぶ。つまり、生前退位そのものは皇統の本質を脅かすものではない。

 ただ、最後の生前退位の例は1817年の光格天皇で、それ以来、約200年間も行われていない。生前退位が行われていた時代の雰囲気を誰も知らないので、「本当にやっていいのかどうか」現代人が不安を覚える要素は確かにある。

 まず、確認しておきたいのは、天皇陛下も日本国民でいらっしゃる以上、基本的人権をお持ちだという事実である。


◆日本国憲法 第11条
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 ただし、天皇という極めて特殊な地位ゆえに、その基本的人権に特別な制約がかけられる場合がある。というより、人権が制約されていると考えなければ説明しようのない様々な制度が、陛下を取り巻いているのである。

 まず、日本国憲法1条で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と定められていることから、日本国籍から離脱する自由(22条2項)を、天皇陛下は持ちえないとされる。国外に移住する自由も、事実上封じられているといえよう。

 また、日本国憲法2条で「皇位は世襲のもの」とされていることから、「両性の合意のみ」で成立するはずの婚姻の自由(24条1項)も制約されていると考えられる。まわりの反対を押し切って結婚することはさすがに不可能だろうし、生涯独身を貫く、いわば消極的婚姻の自由も実現困難と思われる。

 日本国憲法4条は「国政に関する権能を有しない」と定めている。そのため、天皇陛下は選挙権や被選挙権(15条)を持ちえない。法改正や政権批判などの政治的発言が許されないことから、表現の自由(21条1項)や学問の自由(23条)も一部で制約を受ける。「お気持ち」のビデオメッセージで、生前退位のご希望を遠回しにしか表明なさらなかったのも、生前退位の実現には皇室典範の改正が欠かせないためだ。政治的発言と受け止められないよう、極めて慎重にお言葉を選んだためと思われる。

 なお、憲法上の制約ではないが、天皇は神道における祭祀の主宰者というお立場上、信教の自由(20条1項)も制約を受ける(理論上は、天皇陛下がお心の中で神道以外の宗教を信仰することは禁じられていない)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ウォーシュ氏のFRB資産圧縮論、利下げ志向と両立せ

ワールド

米特使、イスラエルでネタニヤフ首相と会談へ=イスラ

ワールド

シンガポール、宇宙機関を設立へ 世界的な投資急増に

ビジネス

英製造業PMI、1月は51.8に上昇 24年8月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 9
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中