最新記事

安全保障

トルコにあるアメリカの核爆弾はもはや安全ではない

2016年7月19日(火)18時13分
ジェフリー・ルイス(核不拡散問題専門家)

 インジルリクに保管されているアメリカの核兵器を保護する予防措置は理にかなっているとはいえ、それはトルコが安定していて、アメリカと友好関係にあるという一連の前提があるからこそだ。インジルリク基地の司令官が基地から連行される光景が不安をかき立てるのは、その図がまさにその前提を揺るがしているからだ。

 トルコの治安情勢はしばらく前から悪化しつつある。アメリカの国防総省は今年、テロの脅威を理由に、インジルリクから軍人と民間人の家族を避難させた。その後4月には、地元の極右団体に所属する2人が、基地内で米軍兵士に頭から大きな袋をかぶせようとした。現場は、核兵器の保管場所から約1キロの場所だ。

 そして今回、エルドアン政権は、アメリカがクーデターに関与した可能性をほのめかした。アメリカに亡命中で、トルコ国内に多くの支持者を持つイスラム教の指導者フェトフッラー・ギュレンが、クーデターの首謀者と見ているからだ。

【参考記事】トルコは「クーデター幻想」から脱却できるか

 不安定なトルコの情勢を見れば、そもそもなぜアメリカの核兵器がトルコに置かれているのか疑問に思うかもしれない。しかも、トルコには核爆弾を搭載する航空機がない。アメリカの核兵器を保有している他のNATO加盟国は、通常兵器と核兵器の両方を搭載可能な航空機(Dual-Capable Aircraft、略してDCA)を保持しており、有事の際には使用できるようになっている。だが、トルコにはそうした航空機が存在しない。つまり、インジルリク空軍基地の位置づけは、単なる小さな保管スペースに過ぎない。

別のNATO国に移管せよ

 トルコより安定して、運用面からも効率的な備蓄場所もあるはずだ。直ちにトルコから核兵器を撤去するのを思いとどまる理由は何もない。実際にアメリカは2001年、核兵器の管理が万全でないことが明るみに出たギリシャから核兵器を引き揚げ、アメリカに持ち帰った。

 専門家の中には、ロシアとの関係悪化が深刻化するなかで、今はNATOの同盟国に配備するアメリカの核兵器を削減する時ではない、という主張もある。それなら、トルコ以外のNATO加盟国に再配備すればよい話だ。すでにアメリカは、核兵器を備蓄する多数の格納施設を欧州諸国に建設している。

 では欧州の再配備先はどの国か。最初にリストから消えるのはベルギーとオランダだ。両国の基地の安全対策は最低レベルで、セキュリティー侵害が繰り返されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大に10億ドル損賠求める投稿

ビジネス

米印貿易合意でインド市場急伸、株式・ルピーが大幅高

ビジネス

川崎汽船、通期の純利益予想を上方修正 市場予想上回

ビジネス

日経平均は急反発、史上最高値を更新 好材料重なり安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 7
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 8
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中