最新記事

安全保障

トルコにあるアメリカの核爆弾はもはや安全ではない

2016年7月19日(火)18時13分
ジェフリー・ルイス(核不拡散問題専門家)

USAF/REUTERS

<先週末のクーデター未遂で、インジルリク空軍基地が舞台になったのを目の当たりにした専門家は皆、不安に駆られただろう。そこには、アメリカの核爆弾が何十発も備蓄されているからだ。直ちに撤去して、ヨーロッパのどこかに持って行くべきだ> (写真は、ISIS空爆の拠点でもあるトルコのインジルリク空軍基地)

 トルコで先週末に起きたクーデター未遂事件。その最も象徴的な光景といえば、爆音と共に首都アンカラを超低空飛行したF-16戦闘機をとらえた動画だろう。クーデターに参加した一部のトルコ軍兵士が操縦し、最後は国会議事堂に爆弾を投下したとされる。レジェップ・ タイップ・エルドアン大統領の飛行機を撃ち落とす計画だった、という噂もある。

 重要なのは、彼らがF-16を飛ばし続けられたことだ。インジルリク空軍基地から飛び立った空中給油機から給油を受けたのでなければ不可能なことだ。

 トルコ当局は、インジルリク上空の空域を封鎖し、基地への電源供給も絶った。翌日には、政府に忠実な治安部隊がインジルリクでトルコ軍の司令官を逮捕した。

空域封鎖で緊張

 今から思えば、トルコ政府がインジルリク上空の空域を封鎖した理由は理解できる。だが空域が封鎖された瞬間は、関係者の誰もが不安に襲われた。インジルリクには、アメリカの核爆弾B61が何十発も備蓄されている。自国の国会議事堂の爆撃を命令じたかもしれない人物が指揮下にあった空軍基地にアメリカの核兵器を置いておくのは、どう考えても得策ではない。

【参考記事】アメリカがギュレン師をトルコに引き渡せない5つの理由

 インジルリクの核兵器は、戦闘機用格納庫内の保管庫にある。そして格納庫は、厳重ないわば「防護柵」の奥にある。アメリカとNATO加盟国は最近、核兵器の安全性向上のために1億6000万ドルを投じた。それが最も顕著に見て取れるのが、インジルリクに新たに設けられた防護柵で、衛星画像でも確認できる。アメリカの核兵器を手に入れて使用するのは簡単ではない。

 だが、もしクーデターが成功して軍事勢力がトルコを占拠し支配する事態になっていたら、はるかに危険な事態になっていただろう。空軍基地は要塞ではない。大使館と同じで、受け入れ国の政府による包囲攻撃には耐えられない。「行動許可伝達システム(Permissive Action Link; PAL)」などのデバイスでロックをかければ、盗まれた核兵器が容易に使用されないようにすることはできる。しかし、いつかは暗号が解除されてしまわないとも限らない。

【参考記事】トルコ・クーデター未遂とエジプト政情不安の類似点

 核兵器が紛失したり、盗まれたりした場合に、それをただの「重くて巨大な鉄の塊」に変えてしまうセキュリティー機能を開発する話は昔からあるが、いつまでたっても話し合いの域を出ていないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中